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Ⅰ.はじめに
頭部外傷の後遺症は多彩である.多発外傷であることも多く,神経系に限らず多くの臓器に損傷をみることも珍しくない.その中で特に高次脳機能障害を今回のテーマに選ぶのは,医学的に重要であるのみばかりか,社会保障制度の中で重要な位置を占めるようになったことによる.
高次脳機能障害という用語は英米圏で一般的に使用されるcognitive dysfunctionやcognitive disturbancesに相当し,認知障害のことである.Cognitionが示す認知機能は知識や知能といった全般的な知的能力を獲得するための能動的機能まで含むので,その障害では行動面での異常まで含む8).したがって失語,失行,失認などのいわゆる巣症状にとどまらず,中枢が明確でない注意の障害なども主要な高次脳機能障害として列挙される.
一方で障害者手帳に代表されるわが国の障害に関する社会保障制度を論じる上で,高次脳機能障害という用語を行政的に定義する必要が生じ,高次脳機能障害診断基準(Table)という形式でまとめられた.この診断基準では原因疾患を外傷性脳損傷(traumatic brain injury:TBI)に限定していないが,本稿はTBIを発症し,社会復帰を考慮し得るレベルの症例を主たる対象にして論述する.頭部外傷を負った患者が慢性期に至って,患者自身がどのような困難に直面するのか,それをどのように診断するのかという諸問題を,この診断基準を強く意識しながら解説することを試みたい.また,軽度外傷性脳損傷(mild TBI:MTBI)という用語に接する機会が増えているが,これは異なった研究者間の結果を比較することや,予後について確かな合意を得るために,受傷時の昏睡期間やGCS(Glasgow Coma Scale)のスコアなどをパラメーターとする操作上の定義であって4),そのような疾病があるわけではない.脳震盪やMTBIについては逐次触れていくが,遷延性意識障害のような重度の症例や知的能力の低下が著しい症例については触れない.また,パンチドランカーに代表される打撲の繰り返しによる累積的なTBIについても触れない.以下,「外傷」は閉鎖性頭部外傷のことを指す.
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