Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
蘇東坡の障害受容―人生の不遇に処する態度
高橋 正雄
1
1筑波大学障害科学系
pp.1020
発行日 2008年10月10日
Published Date 2008/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552101367
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「春宵一刻値千金」の名句で知られる宋代の文人官僚蘇東坡(1036~1101)は,時の宰相,王安石が率いる新法党との政争に敗れ,二度にわたって辺境の地に流されるなど苦難の人生を歩んだ詩人であるが,そうした経験ゆえか彼の詩文(林語堂『蘇東坡』・合山究訳,講談社)ではしばしば,世俗的には恵まれない状況こそが幸いとする一種の価値観の転倒がなされている.
例えば,1080年に揚子江河畔の黄州に流されていた時には,「馬車で出かけるのは,足を弱くするよい方法である.大きな家や奥深い部屋に住むのは,風邪を引くのに,もってこいの方法である.美女と淫楽にふけるのは,健康をそこねる確実な方法である.濃厚な肉料理を食べるのは,胃潰瘍を促進させるのに最適の方法である」と,世間が羨むような贅沢な生活は健康によくないとしてこれを退けている.また,このころ蘇東坡には男児が生まれたのだが,誕生3日目の産湯をつかわす儀式に際して,蘇東坡は生まれたばかりのわが子に次のような詩を詠んでいる.「人はみな,子供が聡明なのを願うけれど,わたしは生涯,才気のために苦しんだ.どうか,わが子よ.愚鈍に生い立ち,難を免れて,宰相の位に昇れ」.
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