Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
マキャヴェリの『君主論』―不遇・困難な状況と傑出者
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.408
発行日 2012年4月10日
Published Date 2012/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552102453
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マキャヴェリは1513年に書いた『君主論』(池田廉訳,中央公論新社)のなかで,困難な状況こそが偉大な行為の母体になるとして,モーゼやキュロスなど,歴史上・伝説上の人物の例を挙げている.
例えば,モーゼが偉大な王となるためには,「イスラエルの民が,エジプト人によってエジプトで奴隷の身分に落し入れられ,しいたげられていた状況とめぐりあう必要があった」.そうした状況があったればこそ,イスラエルの民は奴隷の身分から抜け出してモーゼに従おうという決意を固めたのである.また,ペルシアのキュロス王による征服も,ペルシア人がそれまでのメディア王の統治に不満を持つという状況が必要だったし,ギリシア神話に登場するアテナイの英雄テセウスにしても,その力量を発揮するには,当時の四分五裂していたアテナイ人との出会いが必要だった.これら偉大な王たちは,こうした機会に恵まれたからこそ,その抜群の力量を発揮することができたのである.すなわち,「モーセの力量をうかがい知るには,イスラエルの民が奴隷としてエジプトにある状況が必要だった」し,「キュロスがどんなに偉大な心の王かを知るためには,ペルシア人が,メディアの民に抑圧されていなくてはならなかった」.そして,「テセウスの卓越した手腕を知るには,アテナイの人々は支離滅裂の状態でなければならなかった」のである.
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