Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに―倫理審査までの手続きなど
筆者に与えられた課題は「リハビリテーションにおける臨床研究の研究倫理,適切な研究計画の立案と倫理委員会の利用について」である.そこで,研究計画(プロトコール)の倫理審査の観点を中心に研究倫理を述べてみたい.ただし,本稿はリハビリテーションに特化した記述ではなく,臨床研究全般に関わる内容であることをご容赦いただきたい.
まず,臨床研究を実施しようとする者は,研究開始前にそれぞれの機関の窓口,たとえば治験管理室に研究を申請し,研究計画書が倫理委員会で審査される.倫理委員会の審査の結果,承認されれば申請した臨床研究開始の許可が得られる.この仕組みは,「ヘルシンキ宣言」,「臨床研究に関する倫理指針」,「疫学研究に関する倫理指針」に基づいて行われる.研究者はこれら倫理規範を理解し,遵守する必要がある.これらの規範は研究者を規制するという側面があると同時に,研究者を守るものでもある.少なくともこれらを遵守していれば,仮にプロトコールを承認した倫理委員会と実施した研究者が非難されることはあっても,研究者だけが批判を受けることはない.
本稿では,倫理規範に従った倫理審査を円滑に進めるために,研究者が申請前に研究計画において留意すべきポイントをまとめた.ところで,倫理審査は「倫理」のみについての審査を意味しない.科学性なくして倫理性はあり得ない.患者を対象にして非科学的なことを行うのは倫理的ではない.逆に動物実験と同じ内容の研究デザインの臨床研究が認められないように,科学的でも倫理的でない研究はあり得るが,倫理性は科学性に勝るものであるという関係がある.また,科学性に関する審査に加えて,さらに研究者がその研究を自施設で安全に実施できることも審査の対象であり,倫理性に関する審査として不可欠である.
筆者の所属する国立国際医療センターにおける倫理審査では,倫理委員会の審査に先立ち倫理小委員会の事前審査を経なければならない.この倫理小委員会には,当該の研究の領域には通暁していない他分野の研究者が委員として参加している.研究者が倫理規範を遵守していたとしても,倫理委員会や倫理小委員会が倫理規範を遵守した審査をしなければ,臨床研究の実施施設として不備であるということである.そこで,研究者の立場になることもある倫理小委員会の委員が,予備審査において注意すべき点についても通暁しているような努力が求められている.
ところで,研究を申請する立場の人間にとっては,研究計画書(プロトコール)のひな形があると便利であろう.しかし,個々の臨床試験は,それが現在どの開発段階にあるのか,どのような研究デザインを用いるかによって相当する倫理が異なる.個別の研究の背景を無視したひな形は有害であろう.同様にレビューアーも審査のチェックリストを欲するかもしれない.しかし,レビューのポイントはその研究計画の記述の整合性だけでなく,複数の観点も含めた読み方が重要であると考える.このあたりは審査する側,される側の裏表の関係でもあり,当面は,「何が書いてあるか」ではなくて,「どのように書いてあるか」が問題になろう.
研究計画書(プロトコール)をまとめるにあたっての必要な視点,注意点としては以下のようなものがあり,順次,解説していきたい.
・そのプロトコールは誰が読むと想定するのか?
・プロトコールの要件
・プロトコールに必要な記載事項
・プロトコールを書く視点
・研究デザイン(コアな部分)
・「中止」のもつ意味
・科学性の検証
・プロトコール記載の落とし穴
・その他の細かい留意点
Copyright © 2008, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.