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はじめに
本稿では,排泄障害のなかでも多方面からのリハビリテーション・アプローチが行われている排尿障害について,論じたい.
リハビリテーション医療で扱う排尿障害は,脳卒中や脊髄損傷などによる中枢神経障害,あるいは併存疾患である糖尿病などによる末梢神経障害によって起こる神経因性膀胱である1,2).脳卒中による排尿障害は,低いADL(activities of daily living)レベルと密接に関係し,リハビリテーションの遅延,在宅生活への阻害因子となる3).尿失禁のある脳卒中患者は,ADLの改善や自宅退院率が低いことが報告されている4,5).脊髄損傷では致命的な腎機能障害を引き起こす危険性があり,急性期からその管理は重要である.
しかし,実際に起こる排尿障害は神経因性膀胱ばかりでなく,膀胱や尿道の泌尿器疾患(たとえば膀胱炎,尿路結石,前立腺肥大,尿道狭窄など),婦人科疾患(子宮筋腫や腹圧性尿失禁),薬剤の副作用などによる排尿の問題も合併し,患者の高齢化も相まって,複雑な問題となっている2).
排尿障害には,患者の病前における習慣(たとえば「トイレが近い」など)が大きく影響している場合や,「もらしてしまったら,恥ずかしい」などの心理状態が現在の排尿状態に影響している場合もある6).また排尿障害のために,外出などが制限されている患者もいる.つまり,排尿障害は泌尿器系の問題ではあるが,多面的な原因から生じる場合が多い.
一方,介護する家族などの立場から考えると,排尿障害は大変厄介な問題である.排泄が自立して行えることは,介護する家族にとっても望みであるが,排泄を介助することは大きな介護負担となる.もともとプライベートな問題であり,患者自身にとっても介助されることは,大きな精神的負担となる.
以上のように,排尿障害においては,神経因性膀胱や器質的障害などの泌尿器的問題,運動障害,感覚障害,高次脳機能障害や心理状態などの問題,移動能力,更衣,トイレ動作などのADLの障害,知的あるいはコミュニケーション(失語症や構音障害)の問題などがあり,多面的かつ複雑な問題となっている3).それゆえに,薬物療法などによって膀胱や尿道の機能を改善するための治療にとどまらず,総合的なリハビリテーションアプローチが必要となってくる3,7).
排尿障害の診断・検査から治療までの流れなどについては他の文献1,6,7)を参考にしていただくことにして,ここでは,治療とそのリハビリテーションについて,可能な限りEBM(evidence-based medicine)に則って,述べる.
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