Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
脳卒中患者の非麻痺側上下肢の運動技能が健常者のそれと異なる可能性があることは1-3),一側大脳半球障害でも時に非麻痺側肢の腱反射亢進や筋力低下,巧緻性の低下がみられることから気づかれている.しかし,脳卒中急性期では脳浮腫や頭蓋内圧亢進,ディアシーシス(diaschisis)等による非障害側大脳半球の機能低下が,慢性期では廃用症候群による筋力低下などが考えられ,これらの経時的要因を除いても,非麻痺側肢に一側大脳障害自体に起因する運動技能障害が存在するかは明らかでない.
これまで,脳卒中片麻痺患者の日常生活動作や歩行能力が,片麻痺の程度より非麻痺側の下肢筋力に代表される残存能力との関連が大きいことから,非麻痺側肢の筋力や指タッピング,非麻痺側下肢での立位バランスなどに関心が払われてきた.しかし,複雑な運動の正確さや速度を定量的に評価する方法が少なかったため,この領域の研究は少ない.
複雑な動作を正確に速く行う課題は中枢神経系に最大限の情報処理速度と正確さを要求するため,脳卒中片麻痺患者においては単なる筋力や立位バランス等で明らかにできない運動技能障害の存在を明らかにしたり,運動能力の最終的到達度を予測することに役立つと考えられる.
近年のコンピュータ技術の導入は複雑で速い運動を定量的に評価することを可能にしており,脳卒中片麻痺患者の非麻痺肢の運動技能障害の解明が急速に進むことが予想される.図1に示すように,運動が複雑になるほど,その遂行には認知や注意,連続する動作の切り替え(プランニング,運動プログラム),視覚情報の肢位情報への変換,行為遂行の監視など,連合野機能と運動前野/補足運動野/帯状回の関与が避けられない4).そのため,運動技能を評価するに当たって,それぞれの運動課題の遂行に必要な情報処理系を理解することが必要である.
便宜的に,複雑な一連の運動を正確に速く行うことを運動技能,その遂行に必要な要素的なものを運動機能と表す.そこで,脳卒中片麻痺患者の非麻痺側肢の運動機能・技能の評価,脳卒中急性期からの経過,一側大脳半球損傷によって運動機能障害や運動技能障害が生じる機序について,情報処理過程を含めて考えてみたい.
Copyright © 2003, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.