Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
夏目漱石の『道楽と職業』―引き籠もり学生への対応
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.186
発行日 2003年2月10日
Published Date 2003/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552100754
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漱石はその小説のなかで,大学卒業後も仕事に就こうとしないいわゆる高等遊民を数多く描いているが,明治44年8月に行った講演『道楽と職業』(『漱石全集・第16巻』岩波書店)では,大学卒業後も就職しない学生への対応策を考えている.
『道楽と職業』のなかで漱石は,多くの学生が最高学府を卒業しながら,「何か糊口の口がないか何か生活の手蔓はないかと朝から晩まで捜して歩いている」と指摘する.しかも,「秀才が夢中に奔走して,汗をダラダラ垂らしながら捜しているにもかかわらず,所謂職業というものが余り無い」.それどころか,「三か月も四か月も遊んでいる人があるのでこれは気の毒だと思うと,豈計らんや既に一年も二年もボンヤリして下宿に入ってなすこともなく暮らしているものがある」,「現に私の知っている者のうちで,一年以上も下宿に立てこもって,未だに下宿料を一文も払わないで茫然としている男がある」といった状況が出現していると言うのである.そして漱石は,このような状況を打開するために,大学に職業学という講座を設けることを提案する.彼は,職業学の講座で,「どういう時世にはどんな職業が自然の進化の原則として出てくるものである,と一々明細に説明してやって(中略),職業の分化発展の意味も区域も盛衰も一目の下に瞭然会得出来るような仕掛けにして,そうして自分の好きな所へ飛び込ましたらまことに便利じゃないか」と主張するのである.
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