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はじめに
肺気腫を含む慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease;COPD)は,息切れを主症状とした緩徐進行性の慢性呼吸器疾患である.息切れの進行は日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)が障害される最も大きな要因となっているため,呼吸リハビリテーションの実施によってそれが緩和され,ADL改善およびQOL向上につながることがきわめて重要となってきている1,2).COPDの罹患率は高く,人口の高齢化とあいまってわが国でも患者数が急増しており,息切れのメカニズムの究明とその対策としての呼吸リハビリテーションの確立は社会的にもその意義はきわめて大きい.
呼吸リハビリテーションプログラムのなかの一つである呼吸理学療法は,呼吸介助法,胸郭可動域訓練,排痰法,呼吸練習,運動療法などを包括する理学的な治療概念である.特に,呼吸介助法や胸郭可動域訓練などの治療法は,日本の理学療法士が行う呼吸リハビリテーションのメニューのなかではごく一般的なものとして取り入れられている.残念ながら,本手技が呼吸困難感を緩和させることは経験的によく知られているものの,科学的に十分な検証が行われているとは言えない.本手技が将来的に呼吸リハビリテーションのメニューの一つとして確立し,エビデンスに基づいた世界的ガイドラインに採用されるようにしていくためには,これらの奏効機序などの基礎的事項を一つ一つ科学的に解明していく作業がぜひとも必要である.
呼吸リハビリテーションの治療評価のうち,肺活量(VC)や一秒量(FEV1.0)の変化は最も基本となる指標である.特に,FEV1.0はCOPDの病期決定,治療効果判定の基準となる臨床指標でもあり,最も一般的に用いられる.しかし,呼吸困難や運動能をFEV1.0の変化のみで説明することは不可能であるため3),実際には,他のいくつかの肺機能指標,体重などの体格指標,社会心理的状態,あるいはQOLなどの多数の因子が加味されて判断されてきた.そのなかで,近年,肺容量減少術4)の出現などをきっかけとして,機能的残気量(FRC)などの肺気量の関与の重要性の認識が高まっている5).肺気量は,気道,肺胞を含む口から肺胞までの気量(エアスペース)の総和であり,一杯に吸気した状態の全肺気量(TLC),安静換気の呼気終末のレベルであるFRC,最大呼出した状態の残気量(RV)の3測定指標が基本である.TLCからRVの間の気量がVCと一致する.COPDでは肺は過膨張しているため,これらの3つの肺気量指標がいずれも著しく増加し,重症患者ほど肺気量は大きくなる6).
本研究は,呼吸介助など一連の理学療法が奏効する機序もFRCなどの肺気量を減少させることを介しているのではないかとの仮説を立て,その検証を試みたものである.肺気腫患者に対し呼吸理学療法手技を実施し,その前後で肺気量を直接測定し,併せて,患者の呼吸困難の緩和効果の解析も試みた.
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