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はじめに
脊髄損傷や脳外傷などの重い後遺障害を含めて,リハビリテーションを受ける人のなかには交通事故の体験者が多いと考えられる.本稿では,交通事故体験者のPTSD(Posttraumatic Stress Disorder,外傷後ストレス障害)について,最近の知見をまとめてみた.本稿が,リハビリテーションを専門とする読者の参考になれば幸いである.
統計から見る交通事故体験者の数
最初に,わが国おいて,どのくらいの人が交通事故を体験しているかを統計の数字から整理してみたい.図に,交通事故による負傷者数および重傷者数の推移を示す.年間の負傷者数は約120万人であり,重傷者数(事故直後における全治の見込日数が30日以上の人数)は約7万5千人である.また,後遺障害者数は5万3千人とされている8).交通事故による負傷者数は増加傾向であり,重傷者は横ばいである.年齢層別では,若い世代が交通事故に遭遇して負傷する危険性が高い.人口当たりの負傷者数から判断すると,20歳代前半の世代では,1年間に概ね50人に1人が交通事故により負傷している計算になる.
PTSDの原因となる出来事としては,交通事故の他に,犯罪,航空機事故,自然災害などがあるが,これらの出来事に遭遇する人よりも,交通事故に遭遇する人数のほうがずっと多い.例えば,1年間の主要な犯罪の発生事件(警察が認知した件数)は,傷害事件が約3万6千件,強盗が約7千件,強姦が約2,400件などとなっている.また,阪神淡路大震災の死者数は6,433人であるが,交通事故による死者数は,1年間だけで7千人を超える.PTSDの原因となる出来事としては,どうしても,犯罪,テロ,航空機事故,大規模な自然災害に注目が集まるのだが,わが国の場合,PTSDの原因となる事件,事故あるいは自然災害のうち,一般の人が最も体験する危険性の高いのは交通事故であると言える.
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