Japanese
English
展望
PTSD―その概念と有用性
PTSD
金 吉晴
1
,
鈴木 友理子
1
,
伊藤 正哉
1
Yoshiharu KIM
1
,
Yuriko SUZUKI
1
,
Masaya ITO
1
1国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所成人精神保健研究部
1Department of Adult Mental Health, National Institute of Mental Health, National Center of Neurology and Psychiatry
キーワード:
PTSD
,
posttraumatic stress disorder
,
Psychogenesis
,
Disaster
,
Psychotherapy
Keyword:
PTSD
,
posttraumatic stress disorder
,
Psychogenesis
,
Disaster
,
Psychotherapy
pp.552-562
発行日 2012年6月15日
Published Date 2012/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405102194
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はじめに
外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder;PTSD)は1980年のDSM-Ⅲ(診断と統計のためのマニュアル第3版,Diagnostic and Statistical Manual, 3rd edition)に初めて登場した診断である。その概要,診断基準についてはここに繰り返さないが,この診断概念は,今や消失した心因反応に関する論考を現代の操作的診断基準につなぎ止めるという意義を持っており,そのためにDSM-Ⅲで厳しく批判されることになった心因反応に関する議論の多くがPTSDに集約されてきた感がある。と同時にこの診断は通常の精神科臨床を離れた社会的文脈で注目されることが多く,その代表的な事案が自然災害である。これらの事情に加えて,一時期はこの診断によって民事賠償が有利になるという風潮もあったことと,時としてパーソナリティ障害との鑑別診断が問題になったことなどのために,臨床以前の段階で混乱が生じがちであった。他方でこの病態に苦しむ犯罪被害者,被災者,遺族への治療機会が十分に提供されているとは言いがたい。PTSDに対する薬物療法,認知行動療法は近年,順調にエビデンスが蓄積されており,また臨床の場でこの診断概念を使用する臨床医も増加していると感じられる。上記の混乱は何よりも患者とかかわりながらの臨床的実感を基礎として収束されるべきであろう。
本論では,こうした事情を踏まえ,PTSDと心因反応概念の対比,自然災害におけるPTSD概念の意義,PTSDに対する精神療法の紹介に的を絞って紹介することとしたい。
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