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治療体験記 掲載の趣旨
脳くも膜下出血後の後遺症として,記憶障害,無気力症などの高次脳機能障害をもつ小澤富士夫氏は,発病から2年2か月後に,奥様の立神粧子氏とともに1年間,New York大学Rusk研究所で行われている「脳損傷者通院プログラム」(以下,Rusk)へ参加された.このプログラムは国際的に評価が高い.しかし誰でも治療を受けられるというものではない.事前の神経心理学的評価などによってプログラムへの適応が慎重に検討され,プログラムには患者本人だけでなく,家族あるいは関係者の誰か(signifiicant others)の参加が求められる.これはプログラム終了後,日常生活において高次脳機能障害へ対処するためのコーチ役を務める人を養成することが重要だからである.さらに,このプログラムでは言語を介して,障害への認識を高めること,あるいは問題行動へ対処する方略を身につけることが指導される.言語とは当然英語である.したがって参加者は,日常会話以上のレベルで英語を使いこなす能力をもっていることが要求される.その他にも,治療経費や滞在費の問題などもあるため,この治療を受けられる条件が整った日本人は稀である.また契約社会である米国では常識となっていることだが,ここで行われていることで,いわば企業秘密に類することをみだりに公表すると,訴訟の対象となる危惧すらある.一方で,このプログラムは,New York大学で培われた科学的成果や臨床心理士を中心としたスタッフが長年の試行錯誤によって洗練してきた経験に基づくものである.
小澤氏ご夫妻は,以上のようなことを鑑みて,高次脳機能障害に苦しむ日本の当事者やリハビリテーション支援者に,このプログラムのありのままの内容を伝えることが使命であると感じておいでである.責任者であるBen-Yishay博士は,立神氏がRuskプログラムについて良く理解されていることを高く評価され,立神氏がプログラムについて日本へ紹介することを快諾してくださったという.
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