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はじめに
わが国では急速な高齢化に伴い,認知症(痴呆)老人が,2002年の約150万人から,2025年には約320万人に倍加すると予測されている.また,要介護高齢者のほぼ半数,施設入所者においてはその8割に何らかの認知症の症状がある1)など,認知症は多い.その対策としては,認知症高齢者に対するケアだけでなく予防対策も重要である.介護保険見直しの重点項目である介護予防においても,今後強化すべき分野として認知症の予防があげられており,そのための早期発見と早期介入法の開発が求められている.
認知症,またはその前段階の早期発見や予防事業の対象者のスクリーニング法としては,自記式の問診票と各種認知検査が用いられている2-5).その評価内容には,認知症の自覚症状である見当識障害や物忘れ,記銘と記憶や注意機能の検査,図形模写などがある.これらは大きくは言語性と非言語性(動作性)の検査に分けられる.両者を総合的に把握する検査には日本版ウェクスラー成人知能検査改訂版(WAIS-R)があるが,検査手法が複雑であったり,トレーニングを受けた者が1対1で実施することが必要である.また,検査実施に2時間程度かかることから,多数例を対象としたスクリーニング法としては実用的でない6).そのため,多数を対象とした各種認知検査としては,主に言語性の検査(エピソード記憶や言語の遅延再生,言語流暢など)を用いた報告が多い7,8).しかし,言語性の検査では,早期認知症の特徴である視空間障害や構成障害9,10)が見落とされる可能性がある.
一方,認知症のスクリーニング法として非言語性の検査に着目した報告は少ない.立方体模写は,視空間認知と構成行為を反映した非言語性の検査である.模写の状況から認知機能を簡便に把握できる検査法の一つとして広く使用されている11,12).しかし,地域居住高齢者の立方体模写の遂行状況を明らかにした研究は意外に少なく13),認知症に移行する前段階もしくは初期症状をスクリーニングする方法としての妥当性を検討した報告はない.また,認知機能の低下とともに手段的ADL(IADL)や知的活動と趣味活動や社会活動も低下する.しかし,それらと高齢者における立方体模写能力,さらに認知機能と教育年数とは関連するという報告があるが,日本では社会経済的地位との関連を検討した研究はほとんどなされていない.
そこで本稿では,①立方体模写の地域居住高齢者での遂行状況,②それらと主観的健康感やうつ,趣味活動などの心理・社会的因子との関連,③IADL・知的活動との関連,④社会経済的地位との関連を検討する.これらから,⑤立方体模写の認知症の早期発見ツールとしての可能性を検討することを目的とする.
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