Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
フロマンタンの『ドミニック』―より良く生きようとする意志
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.194
発行日 2006年2月10日
Published Date 2006/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552100255
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1863年に発表されたフロマンタンの『ドミニック』(安藤元雄訳,中央公論社)は,余計者的な青年ドミニックを中心とした物語であるが,この作品には主人公と対照的なオーギュスタンという人物が登場する.オーギュスタンはドミニックの家庭教師で,その生き方については,「財産というものをあてにせずに自分の運命を自分で切り開いてゆく」,「本当に親切な心の持ち主でもあり,ひたむきな感情もあり,どんな場合にもひるまない剛直な精神も持っていた」など,意志の強い独立独歩の人として語られている.
オーギュスタンは,ドミニックに対して,「君はいつも目のつけどころが高すぎたり,低すぎたりしている」,「倫理的に言えば,いい気になるよりもがっかりする場合のほうがずっといいことで,君自身の得にもなります」など,人生を生きていくうえでのさまざまな実践的な助言をするのだが,彼自身,それほど恵まれた状況に置かれているわけではなかった.オーギュスタンは自ら,「天涯孤独で,家族といっても貧乏だし,不幸だし,早死にする者もあるし,みんな生き別れか死に別れをしてしまった」と語るように,決して家庭的に恵まれた人間ではないし,また「生まれつきの素質に欠けたところがあると自覚しているのを,意志と洞察力と熱心さによって,ほぼ埋め合わされていました」とあるように,格別天賦の才に恵まれているわけでもなかった.
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