Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
『シャガール わが回想』―障害のある近親者
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.392
発行日 2005年4月10日
Published Date 2005/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552100089
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1931年,シャガールが44歳の時に発表した『わが回想』(三輪福松・村上陽通訳,朝日新聞社)では,中学生の頃に吃音が始まったというエピソードが語られていて,シャガールにとっての中学生活がストレスに満ちたものであったことを示唆するとともに,シャガールもまた「病みながら生きる存在」であったことを示す内容になっている.
しかし,シャガールは,吃音に対する苦悩や周囲の反応を具体的に語っていないため,むしろこの自伝で注目されるのは,精神障害を思わせる近親者への思いである.例えば,シャガールの母方の祖父は,「生涯の半分をストーブの傍で,四分の一をユダヤ教教会で,そして残りは屠殺場で過ごした」ような人だった.彼は,結婚後もぶらぶらしていて,妻が亡くなって初めて牛買いを始めた.この祖父は,あるお祭りの日,姿が見えなくなった.皆が心配して探してみると,祖父は屋根に攀登り,煙突の上に座って噛煙草を楽しんでいたという.
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