- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
わが国の問題の一つに高齢化がある.日本では2022年10月1日現在で高齢化率は29.0%である.さらに2070年には高齢化率が38.7%と推計されている1).高齢化が進むにつれ,高齢者を支える医療や介護の分野では加齢に伴う身体・精神的変化を理解し,対応することが求められている.
そのなかでも相手の特性を理解して行われるべき行為であるコミュニケーションへの対応は欠かせない.コミュニケーションには聴覚や視覚,認知機能,発声発語機能など複数の機能がかかわっており,高齢者においては,それぞれの機能が加齢に伴って変化するため,問題が生じている原因を整理して,対応する必要がある.
高齢者のコミュニケーション障害の原因には,加齢に伴うもの,加齢が伴って生じる疾患に起因するもの,先天性疾患によるコミュニケーション障害に加齢が伴うものに分けられる2).コミュニケーション障害の有病率については,McAuliffeら3)がニュージーランドの65歳以上の高齢者地域住民71,859人(平均年齢82.7歳,女性61%)のうち,36.2%の人が理解面に,30.6%の人が表出面にコミュニケーション障害を示したと報告している.鈴木4)は,本邦のコミュニケーション障害の有病率は障害の多様性や体系的な調査の困難さから十分ではないものの,加齢性難聴や軽度認知障害などのコミュニケーションにかかわる障害の有病率を考慮して,ある一定数は存在していると述べている.
そして,コミュニケーション障害の心理的影響について,Coshら5)はノルウェーの60歳以上の成人2,890人を対象として,視力低下と聴力低下,双方の感覚低下がうつ病と不安症状に及ぼす影響を調査した.その結果,双方の感覚低下は経時的に抑うつ症状を増加させ,片方の感覚低下のみを有する場合よりも,抑うつの重症度にさらなる長期的リスクをもたらしたと報告している.これらのことから,ある一定数の高齢者がコミュニケーションの問題によって社会的孤立に陥っている可能性が高いため,私たちは高齢者のコミュニケーションの特性を理解してかかわることが大切である.
ここからは,コミュニケーションの専門家である言語聴覚士として,コミュニケーションの成立と加齢性変化と機能に応じた対応方法について解説をする.
Copyright © 2024, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.