連載 臨床実習サブノート 「日常生活活動」をみる・10
歩行
尼子 雅美
1
Masami AMAKO
1
1渕野辺総合病院リハビリテーション室
pp.228-234
発行日 2020年2月15日
Published Date 2020/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551201815
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日常生活活動としての歩行の捉え方
歩行は「ヒトの生活を支える基本的な行動様式」1)であり,2足歩行が人類にもたらした恩恵は計り知れません.歩行が不可能になることはQOLの低下に直結2)し,理学療法を実施するうえで主たる問題点や介入内容となることが多くあります.「移動動作はそれ自体が目的をもった行為ではなく,ADLを遂行するための手段としての意義をもつものである」3)とされるように,歩行は目的ではなく,あくまでも他の目的を達成するために用いる移動手段です.例えば,対象者から聞かれる「歩けるようになりたい」の言葉の先には,“1人でトイレに行きたい”や“買い物に行きたい”,“歩けるようになって友人と旅行に行きたい”など他の目的となる動作が続いているということです.歩行は,動作と動作をつなげる手段としての役割を担っています.歩行という移動手段を用いて何がしたいのか,どのような場所に行きたいのかまで捉えることが,日常生活活動としての歩行を考えるうえで最も重要な部分と言えます.
例えば,自宅内でトイレに行く場面を想定します.動作を細分化すると,椅子から立ち上がり,トイレまで歩いて,扉を開け,方向転換をした後便座に座るといった一連の動作となります.この動作における歩行は,短い距離でも,扉の開閉など他の動作を行いながら立位姿勢を保ち,方向転換を行って着座をする複合的な動きとなります.したがって,距離や速度を重視するのではなく,限られたスペースのなかで安全かつ安定して歩くための歩行能力について考える必要があります.
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