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はじめに
理学療法士が治療のターゲットとする機能障害のなかで,廃用性筋力低下は重要なテーマである.多くの疾患の治療過程において安静による弊害を極力少なくすることを大きなテーマの一つとして理学療法が発展しており,この弊害の一つが廃用性の筋力低下である.廃用性筋力低下は文字どおり「廃用」による「筋力低下」であり,二次的障害と言われる.
筋力は基本的にその横断面積に比例し,筋横断面における筋線維径の総和が反映される.筋力低下の多くは筋萎縮を伴うため廃用性筋萎縮と廃用性筋力低下は同義に扱われることも多いが,廃用性筋力低下は生理学的な変化を表し廃用性筋萎縮は組織学的な変化であるということから,本質的には異なる概念である.
廃用性筋萎縮,すなわち筋肉量の低下は複雑なシステムから成り立つ生活能力の低下や,価値観を含め多くのファクターから成り立つQOLの低下とは必ずしも直線的な相関関係にはない.廃用性筋力低下は廃用性筋萎縮をベースとして筋力が低下した状態であるが,さらにさまざまな機能障害や生活能力障害を引き起こし,ひいてはQOLの低下に結びつく.したがって,筋萎縮を防ぎ,肥大を促進し基本的な筋力を維持・改善することは最低限必要であるが,それを運動機能や生活能力,社会活動に結びつける働きかけが大変重要であり,それこそが理学療法の独自性の一つである.
さて,廃用に至るプロセスは,疾病,外傷などによる安静をはじめとして,「動かせない」ことによるものと,引きこもりや意欲低下などにより「動かない」ことが原因となるもの,さらに最も大きな問題として治療者の誤った判断や施設間の連携が不十分で「動かされない」ことによるものに大きく分けられる.この最後の問題は学術的に大きく取り上げられることはないが,臨床現場では「転院後に筋力低下が著しくなり,歩けなくなった」といった例を筆者自身も多くみており,きわめて重大な問題である.
高齢者における筋力低下には加齢変性としての筋萎縮による筋力低下と,社会活動などが不活発になることによる廃用性の筋力低下が重複し,脳卒中片麻痺では中枢性の麻痺に加え,廃用性の筋力低下も混在する.このように,加齢や疾患などの一次性変性に付加された廃用性の筋力低下の要素に着目しなければならない.
本稿では廃用性筋力低下に至る種々の背景要因と,廃用性筋力低下に対する理学療法についての概略を説明する.
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