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はじめに
工学分野における二足歩行研究は,主にヒューマノイドロボットと装着型ロボットを対象として行われてきた.ヒューマノイドロボットとはいわゆる人型のロボットであり,人間の場合と同様で,歩行がロボットの移動手段として用いられる.ヒューマノイドは,一般にこれを構成する各部の質量や寸法が既知であり,運動の動力学的な定式化が比較的容易である.一方,装着型ロボットでは,ロボット側はともかく装着者から取得・計測できる情報は限定される.
加えて,装着型ロボットの機械的な運動制御の観点では,装着者の動作が入力として捉えられる.しかしながら,装着者の動きを外部から直接制御することはできないため,外乱として取り扱うことになる.これは,装着者の転倒要因となることから,装着者の動作を妨害しないようにロボットを制御しなくてはならず,ヒューマノイドであれば可能な動作も実現できないことが多い.
以上のように,装着者と装着型ロボット,そしてヒューマノイドをそれぞれ機械システムとして捉える場合に,互いに異なるモデリングや制御の戦略が必要となるが,それらが規範とする指標のなかには,共通して利用可能なものも少なからずある.歩行動作の安定性は,その時点の姿勢および運動から力学的に求めることができるため,ヒューマノイドのみならず装着型ロボットや人間にも適用できる.また,人間の動作もまったく不規則ではなく,特に転倒回避のような,いわゆる反射的な動作ではいくつかのパターンの存在が明らかになっており,歩行動作モデルに対する転倒予測の可能性は高まっていると言える.
本稿の主題は「歩行の安全性」である.安全とは,許容できないリスクがないことであり,本稿で取り上げるリスクは転倒リスクである.以下,本論ではまず,歩行の安定性を評価するための指標および転倒リスクの見積もりに関連づけられる歩行,転倒現象の計測,評価方法をそれぞれ紹介する.そして昨今,歩行支援や転倒の研究に新たな方向性をもたらしつつある,下肢を対象とした身体装着型ロボットについて概説し,これを装着した際の転倒研究にも言及する.
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