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はじめに
人はこの世に誕生したその時から成長を始める.人格も然りである.生後人格がどのように形成されるかについては過去に長く大きな論争があった.すなわち,人格は生まれつきのものであるとする遺伝,生前説と,生まれた後の環境によって作られるとする環境説が対立していた.前者は“蛙の子は蛙”という素質要因を主とするものであり,これを支持する研究として家系の研究や双生児研究が有名である.後者は“氏より育ち”という人を取り囲むさまざまな環境要因が人格形成に影響するとするものであり,親子関係やしつけ等から研究が行われた.
しかしながら,2つの説はいずれも一面からみると正しく,氏より育ちは,もし恵まれた環境に育てば良い人格が作られる可能性が広がることを示している.だが,いくら可能性に恵まれていても,それを生かすには元々の素質がなければならない.このように現在では人格の形成には遺伝要因と環境要因が共に大切であり,それらがお互いに影響し合って人格が作られると考える相互作用説から説明されている.
人格を生涯発達的にみた場合,人格は,生得的な素質が土台にあって,生後3~5年の初期の頃の経験や学習を行う日常生活のなかで個人の一応の行動傾向が形づくられるといわれている.わが国に“三つ子の魂百までも”という諺があるように,この時期は人格の形成にとっては重要な意味を持つといえよう.
その後,青年になるにつれて自らが模索しながら主体的に自己を確立していくと共に,人格も“その人となり”といった大人の人格が作られていく.大人の時期では個々人の特徴は安定が続き,身体的,精神的な老化が起こる老年期になって,いわゆる老人特有の人格特徴が出現してくるといわれていた.
しかしながら,周知のごとく,人の寿命が大幅に伸びた時代においては,人生後半期,特に中年期と老年期が長くなり,ストレスを伴うさまざまなライフイベントを体験する機会が増えてきたため,それらの時期が一昔のように安定した平穏な期間であるとはいえなくなってきていることも事実であり,このような状況が人格側面にも影響を及ぼすことも考えられうる.
そこでここでは児童期から高齢期に至る人格の生涯発達を種々の人格理論の見地から展望すると共に,人格を縦断的に追跡している研究からその安定性,発達や老化をみていきたい.
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