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はじめに
わが国で何の注釈もなく「医学」といえば1874年(明治7年)の「医制」に始まる近代西洋医学を指し,この近代西洋医学のルーツとしての医の倫理は,紀元前5世紀ごろのギリシア神への宣誓文である「ヒポクラテスの誓い」がよく知られている.この「ヒポクラテスの誓い」は,パターナリズム(paternalism:家父長主義,父権主義)の批判から,日本中の医療機関の壁から一斉に姿を消した経緯がある.これは医師-患者関係の変遷であり1950年以降の患者の自由意思(自律性),患者の人権・権利の尊重などに加えて,遺伝子診断や治療,出生前診断(ゲノム診断),先端医療(生殖,再生,移植など)といった医療技術の発達,さらには個人情報保護や情報公開,医療過誤や訴訟件数の増加,新たな生命倫理の概念の導入などによって医療専門職-患者関係はさらなる再構築の必要性に迫られてきた.これらが今日のインフォームド・コンセントの重要性,自己決定医療の進展につながっており,医療における理学療法士に求められる倫理の質も次第に高くなっている.
また,1983年の「機能訓練事業」などに始まる地域リハビリテーションの進展,2000年の「公的介護保険法」,近年の「地域包括ケアシステム」の構築などと相まって,医療機関のみならず在宅における理学療法士の役割と理学療法の提供が拡大している.したがって医療のみならず介護領域においても理学療法士の倫理が問われる状況に至っている.
近代西洋医学が今日の形態をとるようになったのは,18世紀末以降とされている1).それ以前では一次医療のほとんどが床屋もしくは風呂屋で行われており2),数少ない「教養ある外科医」ではなく理髪外科医,湯屋外科医といった下級医師によって支えられていた3).このようにこのころの医療は高度専門職とは言い難い人々に支えられていたが,次第に医師養成制度が整い,体系的医学の確立,社会的承認と信頼を経て,現代では医師は完全専門職に位置づけられている.
これは専門職の専門性と地位の変遷の一端を現しており,理学療法士においても,理学療法学の進展は,対象疾患や職域の拡大につながり,整形外科疾患や脳卒中患者中心から心肺疾患,癌,さらには医学がこれまでかかわってこなかった健康を扱うまでに至っている.このような理学療法士の専門性,専門職レベルの向上に伴って求められる倫理のあり方については,理学療法士誕生直後から模索され,1977年には法的責任4),1983年には「専門職の倫理」5),1989年には明確な理学療法士の責任6)が述べられてきた経緯がある.
このように,今後,理学療法士の倫理的課題・問題(以下,倫理的問題)へのかかわりが増加すると思われる状況にあって,必然的に幅広くその対応や解決策を考えていく必要がある.
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