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はじめに
理学療法士の使命は臨床研究に裏付けられた最高水準の理学療法を提供することであり,そのためには臨床研究の一層の推進が必要であると考えられる.2011年に日本理学療法士協会の多くの関係者の努力によって理学療法診療ガイドライン第1版が発行され,エビデンスに基づいて理学療法を提供する基盤がつくられた.一方,このガイドラインのエビデンスとなった日本語論文はわずかである.日本人を対象とし,日本の医療制度や文化的背景のもとで行われた臨床研究による科学的根拠が求められている.この臨床研究の主要な担い手は臨床現場の理学療法士であり,臨床の理学療法士,特に若い理学療法士が積極的に研究に取り組むことの意義は大きい.これまで研究にかかわってこなかった理学療法士諸氏においても,臨床における日々の疑問に向き合い,研究への一歩を踏み出していただくことがわが国の理学療法の水準を高めることになり,ひいては国民の健康に貢献できると考えられる.
一方,医学系研究は人の健康をその課題としているがゆえに,新しい診断法や治療法の効果と安全性は人を対象とした研究を経て確認しなければならない.そこには未知の有害事象が潜んでいる可能性があり,また,標準的な治療で得ることができる効果を得られない可能性など,研究対象者に種々の不利益を生じさせる可能性がある.また,2014年はSTAP(stimulus-triggered acquisition of pluripotency cells)細胞論文の論文不正疑惑から,最終的には論文の撤回と研究不正の認定に至ったことは記憶に新しい.また,降圧薬(バルサルタン)研究に関する利益相反を含むさまざまな研究不正行為が明らかになり,医学系研究に対する社会からの大きな不信を招いた.このほかにも,最近マスコミに取り上げられた問題としては,患者からインフォームド・コンセントを得ずに研究対象としたり,手術中に研究サンプルを採取したりした事案があり,さらに,動物実験での安全性確認を経ずに幹細胞移植の臨床試験を行った疑惑など,研究倫理の問題事例は枚挙にいとまがない状況である.
したがって,臨床研究の推進には研究倫理と安全確保への真摯な取り組みが不可欠である.今日,人を対象とした医学系研究を行うには,所属研究機関の長への研究計画書の提出,倫理審査委員会の承認,インフォームド・コンセント,利益相反の管理,介入研究の場合は事前登録と公表など,さまざまな手順と手続きが必要であり,理学療法士としてもこれらに従って臨床研究を進める必要がある.
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