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1.はじめに
病気の今後の見通しを予後(prognosis)と総称している.患者や家族にとって予後が大きな関心事であることは言うまでもないことであるが,医師,理学療法士,看護婦,ケースワーカーなど医療を提供する側にとっても,患者1人ひとりの病気が今後どうなるのかを予測し,考えられるいろいろな事態に対してあらかじめ対策を立てておくことが望まれる.脳血管障害,心筋梗塞,悪性腫瘍など致死率が高い疾患では,伝統的に生命に対する予後が優先されてきたが,治療法の進歩によって,生命に対する予後が改善してきた現在,障害を残した患者の機能に対する予後や,日常生活の質(QOL)が重視されるようになってきた.標準的な治療法の根拠を与える臨床試験においても予後の改善の定量的な評価が不可欠である.医療を取りまく経済的環境が厳しくなってきた昨今では,予後の改善度と投入される医療費とのバランスの問題も避けて通れなくなっている.近年,リハビリテーションの領域でも盛んになってきたクリニカルパスの考えのなかでも,適切な予測に基づくゴール設定は重要である.このように,評価の指標1)や予後の予測2)を巡って活発な議論が続いている.
予後予測の研究には2通りのアプローチがある.1つは,研究者が自ら集めたデータのなかで,予測の時点の症候と実際に観測された予後との関係を調べる場合であり,今1つはその結果を基に,新しい症例の予後を予測する論理を提示する場合である.ここでは両者の立場を考慮しながら,ロジスティック回帰分析など統計手法のいくつかを紹介したい.
しばしば論じられるように頭脳による情報処理は,ノイズが多いデータのなかから有用なデータを迅速に選出できる,結果がそのまま臨床に適用できるなどの長所を持っている.しかし,処理過程を明文化できない,データ処理の再現性が悪いなどの欠点も多い.一方,コンピュータ上の予測プログラムは再現性に優れているが,コンピュータに入力する前のデータの選別や数量化,モデル上の結論の臨床的な意味づけがむずかしい.更に,臨床医学で使われるデータが医学の進歩と共に急速に変化しているので,何年も前のデータを使って予後予測の論理を組み立てても実用にならない.したがって,予測の研究を始めるにあたっては,研究の目的をはっきりさせ,その目的を達成するにはどのモデルが適当であるか,予定した期間内にデータが集められるかなどを十分に検討してから取りかかる必要がある.
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