とびら
初心忘るべからず
若林 昌司
1
1広島市立安佐市民病院リハビリテーション科
pp.723
発行日 1998年10月15日
Published Date 1998/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551105148
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「初心忘るべからず」という有名な格言がある.昨年,引っ越しをする時,偶然に本棚の片隅から出てきた色あせた色紙には,大きく,しっかりと,見覚えのある文字で,その言葉が書かれていた.『ことわざ辞典』(日東書院)には,「世阿弥の花鏡にあることば.能楽を習い始めたときの,謙虚で真剣な気持ちを常に失ってはならない.慣れて横着になったり,気をゆるしたりしてはならない」と記してある.私にとって,この格言は非常に思い出深いものがある.というのも,理学療法士養成校時代のある実習終了時に,恩師から書いて戴いた言葉だからである.
私の実習は,あまり思い出したくないほど悲惨なものであった.「やめてしまいたい」と何度も思っていた.大袈裟な言い方かも知れないが,ストレスと睡眠不足との必死の戦いであった.しかし,自分なりに精一杯頑張った(つもりであった).その時の頑張りを認めていただいたかどうかは定かではないが,実習終了時に,「初心忘るべからず」と書かれた色紙を戴いたのである.内容は散々で,担当したリウマチ患者のTさんには申し訳ない気持ちであったが,「初めはどうなるかと思ったけど,本当に一生懸命してくれて有り難うございました」という一言は,落ち込んでいた私にとって,本当に嬉しかった.多くの理学療法士諸氏が,臨床実習での体験を通して,理学療法の面白さややり甲斐をみつけるように,私も同様であった.「患者さんのためにも,自分のためにも,今の謙虚さを失わず,もっと勉強をしていかなくてはいけない」と,自分なりに初心に誓ったことは今でも鮮明に記憶している.
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