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1初めに
突然の大きな身体的変化をもたらす外傷性脊髄損傷患者の受ける心理的打撃は,私たちの想像以上に大きいと思われる.リハビリテーションにおいてこのような患者と接するとき,しばしば経験することは心理的問題(抑鬱,退行,攻撃など)に加えさまざまな身体症状(頑固な背部痛,腹痛,胸痛,頭痛,しびれ感,両下肢有痛性痙攣など1))を訴えることである.その他,訓練プログラムを受け入れない,訓練拒否,病棟でのトラブル,言語的反抗さらには自殺企図など行動面の問題も挙げられ,リハビリテーションの進行を妨げることになる1,2,5).これらの症状や問題は患者が新しい状態に適応する過程の心理的葛藤の現れと考えられ1,2,5~7),程度の差はあるが,ある時期ほとんどの脊髄損傷患者にみられる,ここでは抑鬱などの心理的問題や身体症状を呈しリハビリテーションの進行を妨げるような患者を「精神障害を有する脊髄損傷患者」と広義に捉えて稿を進めることにする.また,明らかな精神病を有する脊髄損傷患者には専門病院での加療が不可欠3,5,7)であるため,そのような患者は対象外とした.
精神障害を有する脊髄損傷患者の理学療法として,特に特別な理学療法の手技を用いることはまったく無い.結局のところ心理的なアプローチを試みるだけであり,そのためには脊髄損傷患者の陥る心理的状態をまず知る必要がある.
Guttmann7)は脊髄損傷後の患者の心理的変化をショック期と認識期とに分けた.ショック期には,突然の圧倒される現実に対して,外界との関係を断ち切って自我(表1)を防衛するための無意識な防御反応が働く.認識期はさまざまな不安から「退行」および「否認」の機制が働く時期である.Fink9)は脊髄損傷後の心理的変化を四期に分けて分析した.最初のショック期には完全な医学的治療が必要とされ,心理的にはパニック,極度の不安および無力感に陥り適切な状況判断ができない時期である.第二期は防衛的退行期で現実を「回避」あるいは「否認」する.希望的考えにふけり,価値観および目的は変えようとしない時期である.第三期は自認期であり,以前の自分ではない現実を自覚する.抑鬱はこの時期に著しくなり自殺あるいは自殺企図もありうる.第四期は適応期で,今までとは違う価値観で人生を再構築できると考え自分自身を試し始め,不安と抑鬱を減少させる時期である.
実際の臨床場面では通常,患者の身体状況により治療およびリハビリテーションが進められるため患者の心理的反応はつねに治療過程の後に現れると考えてよい.なぜなら,心理的反応は刺激あるいは変化などが無ければ起こらないからである.したがって,ここでは前述のような段階理論を参考にしつつ受傷後の治療過程にどのような心理状態が生じるか少しでも理解することを目的とし,さらに患者に対する対応の仕方などについても検討した.
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