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Ⅰ.緒言
ヒトの特徴として二足歩行とともに,道具を巧みに操る二本の手を挙げることができる1).その中でも特に人間らしい機能の一つとして,コミュニケーションや感情表出手段としても手の役割を位置づけることができよう.このように手の機能は高度に構築・発達しているため,従来動物実験やモデルシミュレーションでは限界があり,他の部位や機能系に比して不明な点が多い分野の一つであった.
しかし近年の神経生理学の発達に伴い末梢感覚受容器の諸特性が解明される2)とともに,1970年代に入ると無麻酔のサルにおいて微小電極による大脳の活動電位を記録する方法が確立3)し,感覚-運動情報処理過程の一部が明らかにされるようになった.同時に臨床医学領域においても顕微鏡下による手術法の発達は日進月歩であり,腱・神経の縫合術の確立とともに切断後再接着術4)やいわゆるno man's land5)への積極的なアプローチなど,手の機能再建についての概念も変容を遂げつつある.これらの知見に伴い,リハビリテーションにおいても早期自動運動の確立6)や積極的な関節可動域訓練に加えて,さまざまな装具療法7)も実践応用されている.
一方ハイテクノロジーの進む今日,日常生活において手の機能はますます重要となっているが,機械化のために生ずる上肢損傷患者は増加,重症化している現状である.
そこで本稿では,最近の生理学的知見に基づきかつリハビリテーション独自の立場である障害学からみた「手」の機能について,重要な評価観点と治療の原則について述べることとする.次に,手の外科領域における自験例の治療結果について検討し,その治療効果について代表的な症例を供覧して明確にする.その際特に,多くの評価-治療の中から現在まであまり報告の無い感覚機能の回復過程(感覚再教育)とReal ADLとの関係に論点を絞って考察を進めたい.また,これらを通して,機能―障害学的観点からみた手の外科のリハビリテーションの在りかたについて筆者の意見を述べることとする.
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