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はじめに
脳血管障害患者における急性期リハビリテーション(以下,リハ)は,その名の通り脳血管障害発症直後の急性期の疾病管理下で行われるリハのことである.発症後のベッドサイド期から,概ね車いす乗車,リハ室での練習が可能になるまでの期間を指し,日常生活動作の早期獲得にむけて,廃用症候群(関節拘縮,褥瘡,起立性低血圧,肺炎など)の予防が大きな目的となる1,2).さらに高齢患者は脳血管障害以外の疾患を併せ持っている可能性が高くなり,老化に伴う機能低下も考慮する必要があるため3),安全に離床プログラムを進めていくために必要な知識は多岐にわたる.
われわれ理学療法士は,急性期リハにおいて重要な役割を担っている.脳血管障害の発症後可能な限り早期に理学療法を開始し,集中的に実施することは,脳卒中治療ガイドラインでも推奨されており4),現在の理学療法に関する考えの主流といってよいだろう.しかし現実には,脳血管障害患者は高血圧や糖尿病など,種々の併存疾患を有することが多く,また高齢者の場合はその身体機能の特徴も加味したうえで3),理学療法を展開する必要がある.当然,脳血管障害患者の急性期においては併存疾患に対する治療が同時進行で行われることも多く,脳血管障害のみに関する知識だけでは,急性期理学療法を進めることが困難となる場合がある.また,重篤な合併症がなく,脳血管障害に伴う後遺障害も軽度か皆無であれば,急性期治療を終えると同時に日常生活に復帰することが可能となる.しかしながら,急性期の治療後も機能障害や廃用症候群のため日常生活動作に難渋し,日常生活に復帰するためのさらなるリハが必要となることもあり,このような患者に対し,集中的にリハを実施できるように作られた制度のひとつが回復期リハ病棟といえる.
急性期理学療法を展開するうえでもう1つ重要なのは,予後予測・治療目標の設定を行い,適切に離床を進めていくことである.その重要性は理解に難くない反面,困難さも実感するところである5).ことに目標設定に関しては,急性期の段階では活動制限があるため,基本動作や歩行,日常生活動作などを実際の動作からは評価できないこともある.したがって,得てして急性期では「寝返り動作を見てから自立までの期間を考え,歩行を見てから自立までの期間を考える」というような目標設定ばかりしてしまいがちである.これらは一概に間違いであるとは言えないが,急性期医療にかかわる入院期間短縮の動きの中では適切とも言い難い.
脳血管障害の急性期は,投薬などの治療による症状の劇的な改善や,逆に状態の悪化など,非常に短期間で患者の様相が変わる.患者の変化に合わせて理学療法プログラムを変更する後追いの治療ではなく,多角的な視点から予測を行い,時期を先読みしてプログラムを展開する「先読みの理学療法」を展開する意識を強く持つ必要がある.脳血管障害患者の予後予測において,1982年に発表された二木6)による報告は有名であり,約30年経った現在においても十分有用であると考える.一方で,医療技術の進歩に伴い,その頃は考えられなかったような疾患を併せ持つ患者が増えていることも忘れてはならない.
本稿では,心疾患を併せ持った脳血管障害患者に対する急性期理学療法について,複数の疾患別診療班および複数の理学療法士の視点をもって介入した当院での事例を紹介する.
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