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生体は多種多様な分子の複雑な混合物であり,それぞれの分子は秩序正しく配置され,時間および空間軸で量変動や構造変化をしながら機能を発揮している。さらに,生体分子の複雑かつ巧妙な点は,一つの分子が微細な構造変化によって空間的配置を変えたり,相互作用する分子のレパートリーを変えたりすることにより,生理機能を発揮している点である。従って,それらを理解するには,複雑な生体分子の集合体を網羅的に調べ,そこに存在する全ての分子を同定,さらには,存在量や構造変化などを解析するということが重要である。多種多様な分子で構成される生体を一網打尽に解析できる方法は今のところない。また,生体という複雑系を考えると,そのようなことは到底かなう話ではない。しかし,現在の網羅的解析の方向を生んでいるのは,様々な生物種のゲノム塩基配列の決定を背景に,質量分析による蛋白質同定がハイスループットで簡便に行えるようになり,生命科学においてパラダイムシフトが起きたからにほかならない。現在では,蛋白質に留まらず,糖や脂質などの様々な生体分子の網羅的解析にも利用されるようになり,質量分析をフルに活用した“オーム”解析が盛んに行われるようになった。
どんな分析においても測定分解能と感度は分析技術の発展には欠かせない重要な要素である。前者は複雑な構造を解き明かす上で,後者は微量にしかない,例えば生体分子などを検出する上で重要である。質量分析も正にこの二つのポイントに集約される技術開発が盛んに行われてきた。特に,測定感度という点においては,まず試料を気化し,イオン化する必要があるわけだが,30年程前までは,一般に揮発しにくい生体分子はまったく測定の対象外であった。1980年代に入り,いくつかの画期的なイオン化法が開発されたことにより,分析対象は一挙に生体高分子にまで拡がり,測定感度は飛躍的に向上し,今や,アト(10-18)モル量の極微量試料でも測定の範疇に入るほどの高感度測定が可能となった。
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