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はじめに
脳卒中後,様々な要因を背景として姿勢やバランスの異常が出現するが,特徴的な姿勢調節障害のひとつにcontraversive pushing(以下,pushing)がある1).出現率は1.5~63%と様々な報告1~12)があるが,急性期に多くみられる1~4,7,10).Davies13)は「あらゆる姿勢で麻痺側へ傾斜し,自らの非麻痺側上下肢を使用して床や座面を押して,正中にしようとする他者の介助に抵抗する」と述べている.症候群として報告されたため13),「pushing」より「pusher症候群」などと表記されることが多い.本邦では,網本ら4)の重症度の分類で表現された「pusher現象」に馴染みが深い.なお,「contraversive pushing」とは病巣と反対側に向かって押すという意味をもつ.
麻痺や感覚障害が重度であれば,麻痺側へ傾斜して転倒するのも自然なことと想像されるかもしれないが,自らの非麻痺側上下肢を使用して麻痺側へ向かうように押したり,介助に抵抗することは通常ない1).例えば,延髄外側梗塞後に出現するlateropulsion14)は立位や歩行中に著しく傾斜し,姿勢だけ観察すればpushingのようにもみえるが,傾斜を修正する際に抵抗は生じないし,押す現象も観察されない.こうした特徴はpushingの有無を判定する上で最も重要な点である1,15).
現在では多くの理学療法士がpushingを認識していると思うが,様々な解釈があり,存在そのものを疑問視する声もあるようである.その特性上,他の医療従事者よりも理学療法士が最も多く経験する現象であり1),最も治療に難渋する現象のひとつであろう.本稿ではこの現象について概説し,pushing症例の脳画像と回復経過を紹介する.
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