連載 ケーススタディー めまい・難聴
ケーススタディー〔1〕
高橋 正紘
1
1山口大学医学部耳鼻咽喉科学教室
pp.80-92
発行日 1995年1月20日
Published Date 1995/1/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411901080
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はじめに
メニエール病はめまい・難聴の代表的疾患として,日頃の外来診療においてよく遭遇する疾患である。耳鼻科外来患者の約0.5%,めまい患者の5%を占める(厚生省メニエール病調査研究班)。医師ばかりでなく一般の人々にもよく知られており,新聞の医療相談や健康雑誌でもしばしば取り上げられる。依然として長い労働時間に加え(図1),近年のわが国の24時間型社会への移行は,メニエール病の増加傾向に拍車をかけている。また受験塾の盛況は患者の若年化傾向を予想させる。メニエール病は医学的ばかりでなく社会的な視点で捉えるべき疾患である。
日本で本格的にメニエール病が取り上げられるようになったのは,今から約20年前の昭和49年である。厚生省にメニエール病調査研究班が発足し,昭和51年には研究班より「メニエール病診断の手引き」が公表された。研究班発足に当たり,渡辺勈班長は戦後十数年の間にメニエール病が急増したことを指摘している。昭和39年の東京オリンピック開催,東海道新幹線開通に象徴されるように,国民総生産(GNP)が年率2桁の上昇を示し,欧米諸国より奇跡の発展と見られた。景気の上昇により,人口が都市に集中し,産業構造は急激に変化し,ホワイトカラー人口が増え,時間外労働も増加し始めた。産業のソフト化が進み,第3次産業就業者の割合が昭和35年には42%,同45年には47%,同55年には55%と増加した。
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