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はじめに
未来を正確に予測することは困難であるが,専門職には先を見通したうえで現在の課題に適切に対応する問題解決能力が求められる.医療専門職において,機能・能力を詳細に予測する能力は,最も高度な臨床推論(clinical reasoning)である.さらに,ゴール設定には,現在の状態を正確に判断し,それがどのように変化していくのか,また,変化させられるのかを総体的かつ主体的に判断する必要がある.
理学療法モデルの1つでもある脊髄損傷では,若年者の完全頸髄損傷を中心に髄節レベルごとに獲得可能な動作が一覧され,車いすの操作や移乗の方法などが詳細に区分されている.ここで示される動作の到達レベルは,概ね上限が記載されており,関節可動域の制限や痙縮などによって目標は下方修正される.理学療法士は,動作の到達レベルを1つの目安として,心理・社会的状況を勘案した対象者のニーズを踏まえて個別のゴール設定と必要なプログラムを立案・実施する.
脳卒中では,疾病そのものの病態と症状が多彩であることに加えて,脳の可塑性を含めた運動学習能力によって到達レベルは大きく変わり得る.また,加齢変化や高次脳機能障害の影響から,自立度を細分化したゴールを設定することが不可欠となる.未来を論理的に予測する際には,一般的に,長く安定した観察期間から少し先のことを予測することに比較して,観察期間が短い状況で遠い先のことを予測することは難しい.この点から,病態の変化が大きく観察期間が限られる急性期では,正確な変化を予測したゴールを設定することは容易ではない.
本稿では,日進月歩の内科・外科的な診断と治療を含めた病態とその変化を理解したうえで,動作を基軸とした症候障害学に基づく解釈,運動学習能力,対象者のニーズを尊重した生活機能(functioning)を考慮した可能性(potentiality)を現実化するための構造的な戦略的手段の表記としてゴール設定を位置づける.そのうえで,急性期から回復期における病態の特徴と理学療法士の役割を踏まえて,脳卒中における病態評価と解釈による理学療法士のゴール設定についての話題を提供したい.
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