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慢性期脳卒中のゴールの考え方
慢性期脳卒中のゴールを考える際,発症からの期間や対象者のモチベーション,精神機能障害を何の根拠もなく取り上げ,それらと経験則を組み合わせて,「これ以上の回復は困難」,「機能維持が限界」などと設定していないだろうか.結果的に運動機能,動作能力,日常生活動作(activities of daily living:以下,ADL)能力の低下を来してしまったら,それを何の根拠もなく,加齢や廃用症候群と関連づけていないだろうか.一方,脳科学の視点から,どう考えても一定以上の回復が困難な対象者に対して,経験を根拠にあたかも障害が改善するかのごとくゴール設定をしていないだろうか.ADLにまったく結びつかない,ほんのわずかな改善(誤差範囲かもしれないような)を取り出して,理学療法効果としてゴール設定の根拠にしていないだろうか.個人的にはこれらの問いかけを全否定するつもりはない.なぜなら多くの場合,慢性期脳卒中の理学療法の後に控えているのは個人的価値観や主観的要素を多分に含む生活であり,対象者の生活を見据えたゴール設定を行うには,理学療法士としての経験や人生経験も不可欠な要素であると考えるからである.
しかし,EBPT(科学的根拠に基づく理学療法;evidence-based physical therapy)の実践を強く求められている現在,慢性期脳卒中のゴール設定にも科学性が求められるべきであろう.ただし,対象者個人の主観的な生活に無理に客観性,科学性を取り込もうとすると,自由であるはずの生活を他人(理学療法士)が制約することにもなりかねない.そうならないためにも,理学療法士自らが,生活に対する科学性の介入の限界を知り,どこまで科学的,客観的なゴールを設定し,どこから,どの程度まで主観的要素をゴールに取り込むのかを考えていかなければならない.
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