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近年,臨床現場においては,科学的根拠に基づいた医療(EBM)の重要性が叫ばれている.確かにEBMは大切であることには間違いない.しかし,小生はそれだけでは不十分であると考えている.EBMと同じくらい大切なものがある.それは,理学療法士の「臨床推論能力」である.専門誌を読みあさりEBMの結果だけを渉猟し知識武装・技術武装しても,それは所詮,見せかけの知識・技術に過ぎず,真のqualityは望めない.理学療法士を目指す学生さんや,若い理学療法士の先生方には,そのエビデンスを安易に模倣することだけに終わらせてほしくはない.まずエビデンスの背景をじっくり読み取り,さらに,そのエビデンスに含まれる事象を深く掘り下げ思考(臨床推論)していく.その繰り返しが次のさらなる高い次元のEBMへとつながっていくことを知っていただきたい.つまり,「EBM」と「臨床推論能力」は自動車で例えるならば,前輪と後輪のような関係であろう.さて,この自動車の後輪ともいえる臨床推論能力の指南書として「ケースで学ぶ理学療法臨床思考―臨床推論能力スキルアップ―」が2006年に発刊された.この書では臨床現場でよく遭遇する35疾患が取り上げられ,その斬新な企画と充実した内容で多くの読者から支持を得た.その後,2007年に「障害別・ケースで学ぶ理学療法臨床思考―PBLで考え進める―」が発刊された.この書では疾患別から切り口を変えて臨床現場で頻繁に経験,かつ,苦慮することの多い①痛み,②可動域制限,③筋力低下,④バランス障害などといった機能障害別に25例のケースが紹介された.さらに,2009年5月には「続 障害別・ケースで学ぶ理学療法臨床思考―CBLで考え,学ぶ」が発刊された.この書では前回に取り上げられなかった①高次脳機能障害,②筋トーヌス異常などといった機能障害が新たに加えられ深みを増した.そして,同じく5月,生活機能レベル(食事動作,排泄動作,入浴動作など)からみた「生活機能障害別・ケースで学ぶ理学療法臨床思考―自立支援に向けて」が発刊され,全4巻シリーズとして完成を迎えた.構成内容は全巻統一されている.まず,最初に初期情報(処方箋や現病歴など)が与えられ,その情報から解決すべき問題の仮説(問題点の抽出)と,その仮説を証明するための評価項目を立案する作業が質問(Question)形式で行われる.この仮説の立案作業を進めるにあたり「思考のキーワード」,「思考のガイドライン」,「セルフアセスメント」,さらにその仮説を立てるために必要な基礎知識といった情報が読者の思考を実にきめ細かにサポートしてくれる.そして,最後には質問の解答例が提示される丁寧な構成内容だ.次に追加情報が与えられ,仮説の修正と理学療法の目標設定,治療プランの立案のためのEBM,そしてアウトカムへと読者の思考過程は自然とブラッシュアップされていく.この「自然」に学べる工夫(本書のこだわり?)の1つとして図表の多さが挙げられる.読者にとってはイメージしにくい複雑で抽象的な臨床的推論作業が客観的にシェーマとして随所に提示されているのをみると,編集者と各執筆者のこの書にかける強い熱意を感じずにはいられない.理学療法士を目指す学生諸君,あるいは新人理学療法士の先生方.問題基盤型学習(PBL)の1つである症例基盤型学習(CBL)を中心に,臨床推論能力のみならず,深い知識の獲得や,自らが考えそして学んでいく本来あるべき学習方法の獲得に向けて,ぜひ,本書を活用されてはいかがだろうか.小生が自信を持って薦める全4冊である.
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