書評
―有馬慶美(著)―「理学療法臨床診断学への志向―ARIMAの問題解決モデル」
嶋田 智明
1
1神戸大学大学院保健学研究科
pp.491
発行日 2010年6月15日
Published Date 2010/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551101683
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
Harden(1984)は,医学教育は暗記中心の教育から問題解決能力を重視する教育へと転換するべきとして,問題基盤型学習(problem-based learning:PBL)の重要性を強調した.一方,2008年に中教審答申が示した参考指針でも大学の学部教育(学士課程)でつけておくべき力,すなわち「学士力」として問題解決能力の重要性が取り挙げられている.この問題解決能力は,臨床現場で理学療法士に不可欠なスキルであるため,理学療法士教育における重要な到達目標のひとつでもある.本書では,著者が独自に作成した問題解決モデルが提示され,これが理学療法診断における思考過程をサポートする準拠枠となっている.これは理学療法の対象者が有する問題解決のヒントとなる多くの情報を分類・整理し,その問題解決策を講じるための思考を円滑に導くものである.
理学療法士も医師と同様,治療に先立って問診,情報収集・検査・測定などを実施し,障害に関して推論・洞察が行われて,問題点,すなわち治療の根拠を得ることができるが,この問題解決の思考過程はまさに医師の行う診断プロセスと似ている.すなわち,理学療法診断学とは,理学療法士が妥当性のある理学療法を展開するための根拠を得るために,患者や障害者を取り巻く医学的,心理的,社会的側面から,患者や障害者個人を生活全体で総合評価し,リハビリテーション・ニーズに基づき問題点を明らかにする一連のプロセスといえる(和島英明:理学療法のための臨床問題解決法,協同医書出版,1997).
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.