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●定義と意義
「老年症候群(geriatric syndrome)」とは,高齢者に多い,あるいは特有な治療が必要な症状所見の総称とされ1),1957年のJournal of the American Geriatrics Societyに初めて“geriatric syndrome”をタイトルに記した論文が認められ,以来,老年医学・医療の領域で使われてきた.老年医学では,老年症候群は,症状が顕在化する時期(前期高齢者・後期高齢者・時期によらない)により3階層に分類でき,総数は50種を超えるとされているが,その定義は未確立である.Inouyeら2)も,老年症候群は明確な病気と分類するには馴染みにくい虚弱,転倒,尿失禁,譫妄,目眩,失神などを共通の要素とする高齢者の状態であると述べながら,定義は未だ完全ではないことを記している.
定義が確立されていない原因は,平均寿命の延伸のため,高齢期の問題が単に医学・医療的問題にとどまらず,認知・心理学領域や社会学領域を含めて学際的に拡がったこと,またICFの理念にも後押しされてそれらの諸問題を科学的かつ今日的に理解・解決しようとした結果でもある.つまり,従来,医学的に指摘されてきた項目に加え,市井で生活している高齢者にもその日常生活を阻害する症候や不具合があり,それを含め再構成したものを老年症候群と捉える必要があることによる3).具体的には,虚弱,転倒・骨折,尿失禁,低栄養,認知機能低下,口腔機能低下,閉じこもり,足部のトラブル,などの生活に支障を来す(自然)老化を背景として,心身の機能が低下している状態である.その特徴は,①明確な疾病ではない,②症状が致命的でない,③日常生活への障害が初期には小さいことなどが挙げられる.また,寝たきりとなる原因の上位を占めることから,介護予防の直接的なターゲットとなっている.近接概念として廃用症候群(disuse syndrome)があるが,老年症候群とは概念的に一線を画すべきである.“若年者は廃用症候群にはなるが,老年症候群にはならない”,つまり老年症候群は,背景に必ず(自然)老化が存在し,単にdisuseのみによる機能不全や生活の不具合に帰結できない.一方,使わないこと,重力刺激を受けないことによる器官,機能の低下は,若年者と高齢者の両者に起こりうるのである.
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