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はじめに
本邦では,高齢化が急速に進んでいる.2006年度厚生労働白書によると,1970年には65歳以上人口は739万人,総人口に占める割合(高齢化率)は7.1%であった.しかし,2005年には65歳以上人口は2,682万人,高齢化率は21%となっている.今後さらに高齢者数と高齢化率は増加し,2020年には65歳以上人口は3,334万人,高齢化率は26.9%になると予想されている.これに伴い,障害を持つ高齢者も増加の一途をたどり,2000年では280万人,2025年には520万人に達する見込みといわれている.
摂食・嚥下障害の主要な原疾患は脳卒中であり,脳卒中は高齢者に好発する.今後は高齢障害者の増加が推定されており,摂食・嚥下障害を有する患者の著しい増加も予測される.また,本邦の死因の第4位である肺炎は高齢者に多く,その原因の大半は誤嚥性肺炎と考えられている.したがって,理学療法士にとっても摂食・嚥下障害に関して知識を持つことは重要である.
嚥下運動とは,口腔・咽頭・食道それぞれの協調運動により食塊が口腔から胃まで運ばれる一連の運動を指す(図1).食塊とは,丸飲みできる液体やそれに準じたもの,もしくは咀嚼し終えた固形物のことである.嚥下運動の惹起には延髄の嚥下中枢が関与する.一連の嚥下運動は口腔期,咽頭期,さらに食道期がそれに続く.各期は次のような状態を指す.
第1期:口腔期…口唇が閉じ,下顎が固定され,舌が硬口蓋に押しつけられることにより,食塊が咽頭へと押し込まれる.
第2期:咽頭期…軟口蓋の収縮によって鼻咽腔が閉鎖し,舌根部の挙上により口腔への通路が閉鎖し,喉頭前庭すなわち気道への通路が閉鎖して,食道の入口部にある上咽頭括約筋が弛緩した状態で,咽頭収縮筋が収縮して食塊が咽頭へと押し込まれる.気道閉鎖の不全や遅延は誤嚥の原因となり,上咽頭括約筋の弛緩不全と咽頭収縮の減弱は咽頭残留の原因となりうる.
第3期:食道期…食道から胃まで,一次・二次食道蠕動により食塊が胃まで運ばれる.
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