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本稿は標題とした「脳卒中に対する体力科学的評価とトレーニング」が示すように,脳卒中に対し,体力科学的方法論に基づく評価とトレーニングならびにその際の配慮点を明確にすることで,臨床における脳卒中運動療法に新しい視点を提供しようとするものである.これは何も特別な方法論を意味するものではなく,これまで蓄積されてきた体力科学の知識・方法論を忠実に脳卒中のトレーニングに適応しようとするものであるが,唯一留意すべき点は,健常人と異なる脳卒中の疾患特異性への配慮である.詳細は後述するが,おそらく機能障害の改善を目的とする運動療法の治療標的には疾患ごとに大きな違いはなく,いくつかの項目に要約され得ると思う.にもかかわらず各疾患における臨床が方法論的に著しく異なる様相を呈しているのは,運動療法の遂行に疾患特異的留意点があるからではないかと思う.もしそうだとすると,われわれが整理すべきはその疾患特異的留意点が何かということになる.本稿に紹介するいくつかの新しいデータは,このような考え方から生まれたものである.
さて,体力科学的評価・トレーニングは改善標的をフィットネスの向上に設定し,その改善を目指すアプローチと思ってよい.したがって“介入標的となる機能障害”とは,フィットネスの構成要素である,心肺持久力,柔軟性,筋力,身体バランス,の4者がその代表的なものとなる.ちなみに,米国理学療法士協会ではこれに身体構造と身体組成を入れた6項目をフィットネス評価項目としている1).身体構造とは文字どおり身体の骨性支持構造であり,整形外科的障害までも包含する新しいフィットネス概念として実に理学療法士らしい視点と思う.これらの項目の中で,本稿では筆者らがこれまで行ってきた主として脳卒中の筋力,心肺持久力についての疾患特異的評価を紹介しながら,その測定意義ならびにトレーニング上の留意点について考えてみたいと思う.
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