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はじめに
「脳卒中治療ガイドライン 2004」1)では「回復期リハビリテーション(以下,リハ)終了後の慢性期脳卒中患者に対して,筋力,体力,歩行能力などを維持・向上させるための訪問または外来リハを行うことが勧められる(1-8-1)」とされている.また,維持期(慢性期)リハは「獲得した機能をできるだけ長期に維持するために実施するもの」として位置づけ,グレードBとして推奨している.維持期におけるリハのあり方に関する検討委員会では「維持期リハは在宅か施設かを問わず,機能や能力の低下を防ぎ,身体的,精神的かつ社会的に最も適した生活を獲得するために行われるリハ医療サービスであり,高齢者などの体力や機能の向上を図るだけではなく,生活環境の整備,社会参加の促進,介護負担の軽減などに努め,その自立生活を支援することを目的としている.」としている2).
しかしその一方で,平成18(2006)年度の診療報酬改定では算定日数制限が設定され,介護保険制度では通所リハなどで短期集中リハ実施加算などを徹底し,実施期間の制限がない訪問看護ステーションからの理学療法士などの訪問を制限するなど,理学療法実施期間に対しての規制が強化された.
この背景としては,厚生労働省がこれまでのリハの問題点として(1)目標もなく漫然とリハが行われていないか,(2)利用者の生活機能や日常生活に着目したリハが行われているか,(3)リハについて利用者や家族に対し十分な説明がなされているか,(4)リハの場がリハ室に限られていないか,(5)他職種によるアプローチが不足していないか,(6)ケアマネジメント全体と協調がとれているか,などを指摘している3)ことが影響していると考えられる.これに対し理学療法士として十分な科学的根拠の基に異を唱えたいところであるが,リハ医学ではEBM(evidence-based medicine)の確立が遅れており,里宇はその理由として(1)リハに関する質の高い証拠が限られていること,(2)患者の背景因子や治療条件が複雑で,実験室的条件で得られた証拠を直ちに適用しにくいこと,(3)リハ的介入の内容が複雑で単一要素の効果の抽出がしにくいこと,(4)研究デザインの黄金律とされる無作為化比較試験が実施しにくいこと,(5)多施設が共同で使える標準化された尺度が限られていること,などの問題点を挙げている4).
本稿では慢性期脳卒中者に対する理学療法効果の先行研究を調査し,実際に筆者らが行った縦断研究を紹介するとともに,慢性期理学療法に対する今後の課題を検証した.
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