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はじめに
理学療法は,① 評価,② 目標のプランニング,③ 介入手法の選択と実施,④ 再評価という流れで展開され,脳卒中も同様である.① と ④ の評価では病態を示す構成概念を的確に数値化するツールを用いることが重要である.的確な数値化は信頼性,妥当性,反応性を備えたツールによって可能になる.③ の介入では,良質な研究によって有効性が明らかにされた手法を選択することに意味がある.良質な手法は無作為化割り当てと評価の盲検化が施される無作為化比較試験の効果を把握すれば確信がもてる.このように,評価と介入に関する手がかりを見つけることは難しくはない.
一方,② の目標のプランニングではチームカンファレンスやクリニカルパスの検討を通して実践されるが,取り組みに役立つ研究は少ない.機能的な予後予測のエビデンスを活用したプランニングも行われるが,一般的とは言えず,特に慢性期では少ないであろう.
脳卒中発症後の経過は急性期(acute phase)および回復期(post acute phase)の後,6か月以降を慢性期(chronic phase)と表現する1).慢性期に研究疑問を設ける論文では,対象の組み入れ基準を発症後1年以降にすることも多い.発症後6か月以降では運動機能やADL能力の回復がほぼ平坦となる.日本では医科診療報酬の算定期間が限定され(原則150日),回復期リハビリテーション終了後は“維持”期と表現されることも相まって,介入に対する医療専門職者の目標認識が,機能的な低下を防いで維持するという消極的なものになっている可能性がある.脳卒中発症後の長期生存者では,ADL能力は集団の平均としてみれば確かに低下していく2,3).だが,対象者個別にみればその変動パターンや増減の度合いは一人ひとりで違いがある.発症後6か月以降であっても,理学療法によって機能的な向上が得られることを支持するエビデンスは数多くある4).脳卒中患者が回復期リハビリテーションを終え在宅生活を送る際,介護負担を最小化するために,また2025年をめどとした医療提供体制の改革に向けて,慢性期の理学療法による効果を最大化する検討が必要と考える.
本稿では,脳卒中慢性期における理学療法のガイドラインと無作為化比較試験のエビデンスを紹介して,慢性期に行う理学療法の有効性はどの点にあるかを説明する.そして,理学療法の一過程である目標設定についてのエビデンスから,目標設定が果たす役割と効果を把握し,脳卒中慢性期の理学療法をさらに有効なものへと高める可能性について解説する.
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