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30年以上も前になるが,運動学の授業で「人体に第2のテコはない」と学んだ.講師は,本邦の理学療法創成期に助っ人として招聘されたいわゆる外人講師の1人,フランス人のEric Viel先生である.「関節の生理学」を著したKapandjiとも親交があるようで,Kinesiologyを専門とされていた.フランス語なまりの英語ではあったが,イラストを描くのが上手だということもあって,授業はわかりやすくかつ論理的できわめて説得力があった.テコの授業では,つま先立ちでの下腿三頭筋と肘屈曲時の腕橈骨筋の作用を取り上げ,これらは「第2のテコ」といわれてきたが,前者は「第1のテコ」であり,後者は「第3のテコ」であると明快な説明とともに言い切ったのである.それ以来,筆者はこの問題がすでに解決済みであると思い続けてきた.しかしながら,腕橈骨筋は「第2のテコ」として何年か前の国家試験に出題され,また下腿三頭筋は多くの教科書で「第2のテコ」として紹介されている.
一体何が原因でこのような混乱が生じたのか.理論と計算式で容易に解決できる力学の現象にもかかわらず,なぜ長い間統一的な見解ができあがらなかったのか.不思議といえば不思議である.おそらく自身の中では解決している人たちも,あえてこの問題を取り上げて論文にする労をとらなかったからであろう.加えて,今回わかったことであるが,例えば,いつ頃どのような経緯でテコの種類が第1から第3まで決められたのかとか,バランスのテコ,力のテコ,スピードのテコといった呼び方は広く認められた名称なのかといった一般的なテコの歴史や雑学については,少なくとも身近にある運動学関係の本には書かれていない.物理や機械工学系に幅を広げてみても資料にできる記録にたどり着かない.おそらくこれがテコの概念的混乱の最大要因と思われるが,記録がないわけはないはずで,もし何らかの資料をご存じの読者がおられたら是非ともお教えいただきたい.
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