現代のカルテ
人体実験?
野口 肇
pp.48
発行日 1966年8月1日
Published Date 1966/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611203248
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千葉大医学部付属病院の若い医局員が足かけ3年,患者や同僚たちを対象に,コレラ・チフス菌などをバナナやカステラに混入して,ひそかにその反応を調べていた事件が発覚しました.範囲もこの男が出向していた三島市民病院,千葉製鉄病院におよんでいます.このためいく人が死んだか,報道によってまちまちの発表で正確ではないが,いずれはあきらかになるでしょうが,まだ公判が始まったばかり,なりゆきを注目したいものです.ただここではひとつだけ,専攻に医学を志してから高い学資,長い無給インターン制度,学士論文による国家試験,ないしは学閥--などなどたしかにふつうの社会では常識上考えられぬほどのムジュンがいっぱいありますが,だからといってこの医師の行為をさしちがいに「正当化」できないことですぬすみに入ってさわがれ,その家族のいく人か殺した事件とは比較できない性質の職業を利用した非人道ですから.
こうして連日,報道機関は大さわぎしました.問題の医師を鬼畜よばわりもしました,希望したいのは.いつもの悪いクセで,報道は最初鳴りものいりで特ダネ競争を必死にやるが,あとは問題がカスんでしまいがちなのを,このさいやめてほしい点です.世の中には忘れていいものと忘れてかまわないものふたつがあるが,この「人体実験」の場合は前者,しかも異例のできごとだからです.
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