時評
「人体実験」考
小野 重五郎
Jugoro ONO
pp.95
発行日 1988年1月1日
Published Date 1988/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541209221
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平澤正夫さんの『心臓病棟の60日』(新潮社刊)を読んだ.僧帽弁閉鎖不全症で榊原記念病院に入院,弁置換術を受けた(1982年11月)その体験記である.反薬害運動やくすりに関する著書で,ジャーナリストとしての同氏の名を知る人は多いだろう.内科医である筆者は,正直なところ,こんなにくすりにうるさい人を患者に持ったらどんなに大変だろうな,と思いながら,以前,同氏が書かれたものを読んだ記憶がある.そしてまた,100パーセント被害者の立場で発言する同氏に対して,臨床という行為の立場から,距離を感じてもいた.その平澤さんが,この新しい本のなかで,ある種の困惑を正直に述べておられることに好感を持った.
「取材や実践をつうじて,医と薬の深部にある程度ふれてきただけに,心臓手術というハイテク医療に身をさらし,これからの自分が薬と縁を切ることができないという現実に,大きなとまどいとショックを感じる.まさかこんなことになるとは思いもしなかった.」
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