書評
人体の骨格筋 上肢
秋田 恵一
1
1東京医科歯科大大学院・臨床解剖学
pp.111
発行日 2022年1月25日
Published Date 2022/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408202241
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人体の美術展のカタログを手に取っているかのように思える1冊である.まず目に飛び込んでくるのは,写真の美しさである.解剖実習の経験者であれば,この解剖がいかに難しいものであるか,洗練された技術に基づいたものであるかがわかるはずである.また,アトラスのイラストでは,全ての筋の筋線維の方向まで正しく描写することは非常に難しい.われわれは,この筋線維の配列から,筋の運動を知ることができ,躍動感を感じることができるのである.
人体の構造は複雑で緻密であり,美しい.また,非常に機能的である.しかし,機能の追究によって形態ができてきたわけではない.さまざまな形態構造の織りなす作用が複合的に働くことによって,複雑な機能が作り出されているのである.よって,骨格筋を1つ1つ分解して解析するのがよいのか,機能を作り出す単位としていくつかの筋をまとめて解析するのが良いのか,という解剖学的なとらえ方の違いは,研究者によって起こり得る.それでも,やはり1つ1つの筋の形態に関する理解がなくては先に進めない.本書に示される個々の筋の起始,停止,形状,筋束の構成についての解析と文献的考察,そして機能特性に関する記載は,筋のスペックを示す上で非常に重要なデータであり,読者が筋の1つ1つを動く構造体として捉えることを可能とする.これらのデータは,機械の詳細なカタログや取り扱い説明書のように,静止する写真を生き生きとした動画にさせる,読者の想像力に訴えかける仕掛けとなっている.
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