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はじめに
老化は一定の制御メカニズムを伴うが,いまだ未解明な点も多く存在する.種を超えて保存され,老化研究で最も研究されているのがインスリンシグナル経路である.インスリンシグナルの抑制が寿命の延長につながることは,多くの種,実験モデルを用いた研究により報告されている.肥満や糖尿病,心不全は加齢とともに罹患率が上昇する加齢性疾患であるが,これらの病態において,全身のインスリン抵抗性(高インスリン血症)は病態の中心的基盤を形成する.インスリン抵抗性の獲得には臓器間で差があり,マウス心不全モデルにおいて内臓脂肪や肝臓がインスリン抵抗性を獲得する一方で,心臓ではインスリンシグナルが亢進することで心肥大反応が進行し,心不全が増悪する1).糖尿病心ではインスリン-Akt(RAC-alpha serine/threonine-protein kinase)経路は活性化するものの,下流のAkt-Glut4(glucose transporter type 4)経路や,Akt-mTOR(mammalian target of rapamycin)-オートファジー経路が抑制されることがわかっている.肥満ストレス下の血管ではインスリン-Akt経路が抑制されるものの,インスリン-ERK(extracellular signal-regulated kinase)経路が活性化し,このような選択的インスリン抵抗性により血管リモデリングが進行すると考えられている.肥満・メタボリック症候群が老化を促進する主な原因は,高インスリン血症を介したインスリンシグナルの過剰な活性化が主因であると広く受け入れられている.
われわれの身体の中には白色脂肪,褐色脂肪をはじめさまざまな脂肪組織が存在し,全身の代謝制御に重要であることが明らかとなっている.本稿において,全身の代謝制御における脂肪の役割について,特に褐色脂肪に注目して概説したい.
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