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はじめに
GM-CSF(granulocyte macrophage-colony stimulating factor)自己抗体が市販のイムノグロブリン製剤中に普遍的に検出されることを最初に報告したのは,Svensonら1)である.彼らは,GM-CSF自己抗体は中和抗体であり,GM-CSFとのavidity(親和性)は10~50pMと著しく高いと述べている.また,イムノグロブリン製剤は,数千人もの健常プール血清から精製するため,健常者のなかでたまたまGM-CSF自己抗体をもつ人がいたために,全体として陽性になったのであろうと述べている.
しかし,GM-CSFとGM-CSF自己抗体の複合体を解離させる方法を用いて健常血清中の自己抗体濃度を測ると,微量ながら全ての検体に存在することが明らかとなった2).その後,筆者は,この方法をさまざまなサイトカインに応用したところ,健常ヒト血清中には,IL(interleukin)-4,5,6,8,10,12やTNF-α(tumor necrosis factor-α),VEGF-α(vascular endothelial growth factor-α),G-CSF(granulocyte colony-stimulating factor),IFN-γ(interferon-γ)などに対する自己抗体が存在することを確認した3).
健常血中に普遍的に存在するサイトカイン自己抗体の意義は不明であるが,それらの過剰産生は,さまざまな疾患や病態を呈することが知られている.G-CSFに対する自己抗体の過剰産生は,Felty症候群において,好中球の減少をきたす4).また,エリスロポエチンに対する自己抗体は真性赤芽球癆の一因と考えられている5).また,播種性MAC(Myco-bacterium avium complex)症の一部の患者にIFN-γに対する自己抗体が過剰に存在していることは有名である6).サイトカイン自己抗体の過剰産生が病因となりうることがわかったのは,特発性肺胞蛋白症(pulmonary alveolar proteinosis,PAP)の血液および肺に存在するGM-CSF自己抗体が最初である7,8).PAPは1958年にRosenらによって記載され,わが国では1960年に岡らによって紹介された稀少肺疾患である.PAPは,サーファクタントの生成または分解過程に障害があり,肺胞腔内を主として末梢気腔内にサーファクタント由来物質である好酸性顆粒状物質の異常貯留をきたす疾患の総称である.わが国のPAPは人口百万対6.2人と推定される9).
GM-CSF自己抗体は,GM-CSFあるいはIL-3依存的に増殖するTF-1細胞のGM-CSF存在下での増殖を濃度依存的に抑制するが,IL-3存在下での増殖は抑制しない8).また,この自己抗体のGM-CSFに対するavidityを測定したところ,20.0±7.5pMと著しく高いことを確認した10).サーファクタント中の高濃度のGM-CSF自己抗体がⅡ型上皮細胞が産生するGM-CSFと結合・中和することで,その生物活性を完全に中和するのが,本疾患の病因であると唱え,各国の研究者の賛同を得て,2005年大阪で行われた国際肺胞蛋白症会議で,従来の特発性PAPを自己免疫性PAPと呼ぶことが提唱され,現在ではこの呼称が一般的となっている.
その後,米国シンシナティ小児病院のSakagamiら11)は,血漿交換を受けた自己免疫性PAPの血漿からGM-CSF自己抗体を精製し,シクロホスファミド+CD20抗体でconditioningしたカニクイザルに輸注することにより,PAPの動物モデルを作製することに成功し,本自己抗体が病因であることを証明した.
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