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わが国の前立腺癌罹患率は近年増加傾向にあり,2005年の統計では,男性では胃癌,肺癌に続いて3番目に高く,患者数は2005年度の厚生労働省調査では,男性癌の第1位であり,年齢別にみると,50歳代前半は7位であるが,50歳代後半は4位と,50歳代から注意が必要であることがわかる.2009年の前立腺癌死亡数は10,033人と増加傾向にあり,将来もさらなる増加が懸念されている.それに対し,1980年代後半から前立腺特異抗原(prostate specific antigen,PSA)検査を用いた癌検診が普及した米国では,2006年の前立腺癌死亡率は1990年と比較して39%も低下しており,2009年の癌死亡数は約2万7千人に減少したと推計されている.わが国の現在の推計死亡数と比較した場合,米国の人口はわが国の約2.5倍であることから,わが国と米国の前立腺癌死亡率はほぼ同じと予測され,将来は米国を上回る危険性もある.わが国では2000年以降に検診実施市町村は増加し,2009年には約70%の市町村がPSA検診を導入している.
一方,PSA検診に対する専門機関の評価は,推進と反対の意見があることをご存じの方は多いと思われる.わが国もかつて二つのガイドラインが存在し,厚生労働省がん研究助成金研究班は,既存研究結果に一致性がなく,当時,欧米で進行中であった無作為化比較対照試験(randomized controlled trial,RCT)の結果が出ていなかったことを主な理由に,「PSA検診を推奨しない」との報告を2008年に出した.それに対し日本泌尿器科学会は,既存研究を批判的に吟味し,信頼性の高い研究を考察した結果を「前立腺がん検診ガイドライン:2008年版」にまとめ,当時既にRCTで死亡に直結する転移癌や進行癌の減少効果が証明されていたこと,RCT以外の信頼性の高い研究ではすべて死亡率低下効果が支持される結果であったため,「PSA検診を推奨する」との方針を出していた.
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