- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
欧米先進諸国においては,1980年代の後半から前立腺特異抗原(prostate-specific antigen,PSA)スクリーニングが普及し,発見される前立腺癌の臨床病期が早期にシフトした.また,それに伴い治療体系が大きく変わったために,前立腺癌のランドスケープは一変したと表現されている.米国においては,50歳以上の男性の約75%は少なくとも1回はPSA検査を受けたことがあると推測されている1).スクリーニング普及後の米国の前立腺癌死亡率は1992年を境に低下傾向にあり,2002年の米国における前立腺癌死亡率は1992年と比べ25%低下している2).
PSAスクリーニングの普及に伴って前立腺癌死亡率の低下がみられた理由は,スクリーニングで発見されなければ死亡,あるいは進行癌になりQOL(quality of life,生活の質)の低下や全身状態の悪化をきたす,いわゆる“臨床的に重要な癌”がスクリーニングによって多く発見されたためである.しかし一方で,発見された癌のなかには,無治療で放置した場合においても,死亡に影響しない,あるいはQOLの低下をきたすような浸潤癌へと進行しない,いわゆる“臨床的に重要ではない癌”が発見され,治療を受けていた可能性があり,過剰診断・過剰治療といわれ,前立腺癌検診の不利益といわれている3).
理想的なPSAスクリーニングを確立するためには,臨床的に重要な癌の見逃し(過小診断),あるいは臨床的に重要な癌に対して不十分な治療がなされてしまう(過小治療)ことを極力少なくし,過剰診断・過剰治療を避ける方向が望ましいということは疑う余地がない.現時点では,①最適なスクリーニング対象の絞り込み,②PSA基準値の工夫,③PSA関連マーカーを参考に生検適応を絞り込む,④生検方法の工夫,⑤生検病理所見を参考に,テーラーメイド治療を行う,などいろいろなレベルでの過小診断・過小治療,過剰診断・過剰治療を避ける方法が考えられる.
今回,理想的なPSAスクリーニングの確立に当たり,1次スクリーニングにおいてその役割が期待される年齢階層別PSA基準値のコンセプト,実際のスクリーニングでの成果,最先端の研究結果からみる将来の可能性について解説する.
Copyright © 2007, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.