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生殖補助医療(ART)について
わが国の生殖補助医療(assisted reproductive technology,ART)は1983年に日本産科婦人科学会により臨床応用が承認され,不妊治療が開始された.爾来20数年間に30種類以上の技術開発や胞胚期移植,顕微授精(intracytoplasmic sperm injection,ICSI)などの技術的進歩により,すでにARTによる累積出生児数はほぼ8万5千人(2002年現在)に達している.わが国における潜在不妊人口は120万人前後と予測され,ART施設は640施設に及んでいるが,実際に不妊治療を受けているのはその1/6の20万人程度にすぎない.日本産婦人科学会登録調査小委員会の2002年度分のARTの臨床実施成績報告によれば1),ARTを受けた患者の79%,治療周期の86%が不成功に終わり,多くの患者が毎年,挙児を得られずに喪失感を味わっているのである.このため不妊治療の経済的,社会的,肉体的および心理的問題が指摘されており,厚生労働省もARTを先進的不妊医療として助成金支給を開始し,保険適用や混合診療などの方針を模索している最中である.また,近年増加傾向にある晩婚化,晩産化に伴う少子化や高齢婦人の不妊に対して新しい政策を検討する必要がある.
ARTの現状
ARTの技術にはCOS(controlled ovarian stimulation,調節卵巣刺激法),採卵,採精,授精(顕微),胚培養,培養液調整,培養環境の管理,胚凍結保存,解凍,胚移植(embryo transfer,ET),黄体補充などが含まれる.COS,採卵,ETなどは医療行為であり,医師の責務となるが,それ以外の操作は医師以外の実施協力者が行ってもよいことになっている.しかし実施協力者は生殖医学,発生学などに関する高度の知識,技術を習得した者であることが必要であり,配偶子,胚の培養や哺乳類卵子の顕微授精に習熟していることが重要である.このために胚培養士制度が発足し,生物,理学,農獣医学,医療技術系の者で一定の訓練を受けた者が受験資格を得て認定を受けられるようになっている.最近のARTの成績ではIVF(in vitro fertilization,体外受精)群の移植あたり妊娠率は28.9%であり,採卵あたりでは22.9%である.ICSI群では26.2%,20.0%であり,IVF群と比較して有意差を認めない.また妊娠あたりの流産率は両群それぞれ23.8%,22.8%とほぼ同率であった.しかし移植あたりの生産率はIVF群で19.7%でICSI群では17.6%とICSI群でやや低い傾向が認められた.また妊娠あたりの多胎率はIVF群17.3%,ICSI群15.8%とICSI群で低い傾向が認められた.凍結保存胚による治療成績では患者総数11,991人,総周期数15,874回であり凍結胚-移植法が治療として定着していることを示している.移植あたりの妊娠率も27.7%であり移植あたりの生産率も19.0%と新鮮胚に比較して差はない.妊娠あたりの流産率も23.4%であった.
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