連載 生殖補助医療 “技術”がもたらした現実と未来 [最終回]
21世紀の生殖補助医療のあり方
吉村 泰典
1
1慶應義塾大学医学部産婦人科
pp.604-610
発行日 2003年7月1日
Published Date 2003/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665100559
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はじめに
生物は生殖により次世代を産生し,個体の死を超えて存在することを可能にしている。ヒトはあくまで生物であり,ヒトもまた生物の例外でなく,生殖により子孫をつくり出す。近年の生殖医学の進歩にはめざましいものがあり,生殖現象の解明のみならず,ヒトの生殖現象を操作する新しい技術も開発されている。このような状況下で20世紀後半には,体細胞クローンヒツジの誕生とヒトのembryonic stem cell(ES細胞)のcell line化という二大エポックが起こった。ヒトの生殖医療に携わるわれわれにとっては,この2つの事象のもたらす科学的意義を否応なしに考えざるを得ない時期にきている。
科学技術の将来を考えるとき,いつも夢をもって語られる。胚性幹細胞(ES)の場合,その夢がとりわけ大きいように思える。そのES細胞に関する研究が日本で始まろうとしている。新しい技術が健全に発展するためには,それを適切に評価するための法,制度,ガイドライン,インフラストラクチャー(支援体制)などの制度が必要なことはいうまでもないことである。しかし,それにもましてこうした生殖医療をはじめとした先端的な科学技術が社会に受け入れられるためには,社会の側の準備がある程度整っていなければならない。新たな科学技術の研究を始めるにあたって,その技術が人々にどのような影響を与えるのか,その利益と不利益をさまざまな観点から考えなければならない。
本稿では,ヒト生殖医療の現状とその問題点ならびに今世紀初頭に話題となるであろうトピックスについて概説する。
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