今月の主題 性行為感染症(STD)
検査と疾患—その動きと考え方・86
不妊症と流・早産
吉田 茂子
1
Shigeko YOSHIDA
1
1東京女子医科大学産婦人科学
pp.175-180
発行日 1984年2月15日
Published Date 1984/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542912121
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近年著しく発達した抗生物質の開発や,予防医学の進歩した今日において,生殖に及ぼす感染症の頻度は,減少したかにみられるが,妊婦の重症感染症による死亡は,妊産婦死亡の第4位を占めており,原因不明として取り扱われている不妊症や,流・早・死産の中には,母体の感染症に帰因していると推定されているものが多い.
性行為によつて伝播する感染症は,古くは淋疾や梅毒によつて代表されてきたが,これらは抗生物質の出現によつて激減し,その起炎菌も大きく変遷してきた.そして近代医学の発展は,未知のウイルスや微生物の分離培養を可能とし,今まで原因不明とされてきた疾病から分離されるようになり,しだいにその原因が明らかになりつつある.これらの中で原因不明の不妊症や流・早産の原因として,ウイルス,mycoplasma, chlamydiaなどが新しい性行為感染症の起炎菌として注目されてきた.ウイルス感染としては,herpes viruS群がもっとも代表的で,これらの感染症は,感染の初期に強い自覚症状を現すものと,まったく無症状に経過するものとがあり,また初感染の時期によっても,その妊産婦や胎児に及ぼす影響が異なる.すなわち,妊娠の初期に初感染が起こると,全身に散布され,血行を介して胎児に感染が起こる.重症感染では,流産,早産,死産となり,軽症感染では,先天性奇形児や,先天性異常児の出産となるか,または,出生後多くの機能障害を残す結果となる.
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