- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
電気泳動(Electrophoresis)とは電流によって荷電をもった物質が溶液中で移動する現象で,この用語を用い始めたのは1909年Michailis, L.であるというからもう大分古い話である。その後Tiselius,A.が1937年独特の電気泳動装置を考案発表してから,特に血漿タンパク質分画の定量に広く利用されるようになった。また生化学,生理学の研究領域のみでなく,疾病時の血漿についても観察されるようになり,疾病の診断,経過の観察の一助としても重要視されるようになった。Tiselius装置は液槽中で電気泳動を行なわせるもので,その測定は光学系の測定装置によっている。今日では小型化され,検体も少量化(約1mlは必要)されてはいるものの装置そのものがかなり高価で,あまり一般的でないうらみがある。一方1948年ごろから一定のpHの緩衝液でぬらした濾紙に混合アミノ酸をつけ,それに電流を流すとそのアミノ酸が濾紙上でよく分離されることが観察され,その後無機物とか特殊なタンパク質の分離にもつかわれていたが,1950年に至り血清タンパク質の濾紙電気泳動が行なわれるようになったものである。
濾紙電気泳動で血清タンパク質の分画分離を行なうのは,Tiseliusの電気泳動装置で行なうのと比べて,血清量がはるかに微量ですむこと,多くの検体を並行していくつも泳動を行なわせることができること,分離した各分画の抽出が簡便に行なわれ得ること,装置が簡便ですむこと等が特徴で,多くの人々の努力でわが国でも研究用に,また臨床検査にかなり広く用いられるようになった。血清については濾紙上で分離したタンパク質各分画は濾紙ごとBPB,アミド黒などの染色液につけてタンパク質にこれらの色素を吸着させ,この吸着した色素量の大小をそのままデンシトメーターにかけ,あるいはその部分を切りとって後水溶液に抽出して比色計にかけて測定することが一般に行なわれる。すなわち,吸着色素量をもってタンパク質量に見合うものとしてこれを測定し,各分画のしめる相関量をパーセントとして算出するものである。したがって液漕内で分離した各分画を屈折率の差の大小によって相関量を出すTiseliusの方法とはその分離法においても,またその測定法においても,異なるものである。
Copyright © 1962, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.